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[トピックス] 第14回日本心臓財団メディアワークショップ
一般市民による心肺蘇生の重要性

従来の一般市民による心肺蘇生では人工呼吸と心臓マッサージ(胸骨圧迫)が必要とされていたが,2010年にガイドラインが改訂され,胸骨圧迫のみの心肺蘇生が推奨されるようになったことで,

長尾建氏

長尾建氏

石見拓氏

石見拓氏

一般市民による心肺蘇生の増加が期待されている。2011年2月23日,「コール&プッシュ!プッシュ!プッシュ!~一般人による救命救急の今~」をテーマとして,第14回日本心臓財団メディアワークショップが開催された。山口徹氏(虎の門病院)が座長を務め,長尾建氏(駿河台日本大学病院)と石見拓氏(京都大学)が講演した。

院外心停止例での心肺蘇生は胸骨圧迫だけでも有効

院外心原性心肺停止は急性心筋梗塞に多くみられるが,その3分の2が病院に到着する前に死亡していることが報告されている。こうした患者を救命するためには,一般市民による心肺蘇生術の実施が重要であるが,その施行率は20~30%以下であり,多くは救急隊の到着まで放置されている。その理由として,人工呼吸への抵抗感や,手技の複雑さが考えられる。

こうしたなか,長尾氏らはSOS–KANTO試験を実施し,院外で心停止を起こした例を対象として,胸骨圧迫のみの心肺蘇生と,従来の人工呼吸と胸骨圧迫を併用した心肺蘇生の有効性を比較した。その結果,一般市民による蘇生法では,従来の心肺蘇生に比べ,胸骨圧迫のみの心肺蘇生は同等もしくはより好ましい措置であることが明らかとなり,2007年のLancet誌に報告した。その後,関西地区や欧州,アジアからも同様の結果が報告されている。これらの研究を受けて,米国心臓協会(AHA)は,2008年に胸骨圧迫のみの心肺蘇生を推奨した。わが国では,日本循環器学会が胸骨圧迫のみと自動体外式除細動器(AED)による心肺蘇生の普及活動を開始した。2010年に発表された「心肺蘇生法と緊急心血管治療のための国際ガイドライン(CoSTR)2010」でも,胸骨圧迫のみの心肺蘇生の重要性が強調され,一般市民による心肺蘇生では第一に行うものと位置付けられている。これまでは,一般市民による一次救命処置(BLS)は,まず気道(A)を確保し,人工呼吸(B)をしてから,胸骨圧迫(C)を行うこととされていたが(ABC),新たなガイドラインでは,胸骨圧迫(C)を行ってから気道(A)を確保し,できる場合は人工呼吸(B)をする,という順序(CAB)に変更された。また,胸骨圧迫に際しては,約5cmの深さで,1分間に100回以上が必要とされている。

一方,AEDの普及により,院外心停止患者の救命率は少しずつ上昇している。わが国における院外心停止数は年間11万件であり,そのうち約55%が心原性である。一般市民によるAED施行例は,2005年にはわずか1.2%であったが,2006年は3.3%,2007年は6.2%と着実に増加している。また,AEDを受けた例の神経学的転帰も,24.4%,28.7%,34.3%と改善している。

長尾氏は「迅速な胸骨圧迫とAEDにより,多くの院外心停止を救うことができる。そのためには,より多くの一般市民の協力が必要である」と呼びかけた。

コール&プッシュを普及させるために

心肺蘇生はこれまでにも熱心な普及活動が行われており,年間に200万人以上への講習が行われている。しかし,手技の複雑さから習得が困難であり,実際に行われることが少なかった。

あっぱくん

「あっぱくん」。
より低コストの「あっぱくんライト」や,評価機能のついた「あっぱくんプロ」なども開発されている。

今回のガイドラインの改訂により,心停止の目撃者による心肺蘇生を増加させるため,一般市民を対象とする講習では,胸骨圧迫のみの心肺蘇生が推奨されるようになった。従来よりもシンプルな手技であり,一般市民による心肺蘇生の増加が期待されている。また,心肺蘇生講習を体系的に展開するため,学校教育に導入することも推奨に加えられている。 心肺蘇生をより広く普及させるためのトレーニングキットとして「あっぱくん」が開発・使用されている。これまでの講習では多大な費用と時間がかかっていたが,「あっぱくん」は低コスト(1台2,625円)であるため,1人1体を使用することが可能となり,全員が心肺蘇生を体験することが可能となった。

さらに,心肺蘇生をより広く普及させるため,講習を通じて心停止患者を救命する地域づくりを目指す「PUSHプロジェクト」が実施されている(http://osakalifesupport.jp/push/index.html)。大阪府豊中市では,毎年,人口の5%に対して胸骨圧迫のみの心肺蘇生の講習会を提供しており,心停止患者の1ヵ月後の生存率は23.7%と世界でも高い救命力を有し,「救命力世界一」を宣言している。

石見氏は「講習会に参加してくれる人だけでなく,関心のない人々にも心肺蘇生を普及させることが重要」とし,一般市民のさらなる認識の必要性を訴えた。

なお,第75回日本循環器学会総会・学術集会(http://www.congre.co.jp/jcs2011/)では,3月21日(月・祝)14:00–16:00に,第9回心肺蘇生法市民公開講座「だれでもできる蘇生法,大切な命を救うAED」の開催を予定。参加申し込みは同学会ウェブサイトにて3月14日まで受け付けている(http://www.congre.co.jp/jcs2011/jpn/citizen/citizen1.html)。


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