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RA系阻害薬による心房細動治療のターゲットはどこにあるか

社会の高齢化に伴い,心房細動の有病率も増加しており,心房細動は現在最も注目されている循環器疾患の一つである。近年の多くのエビデンスの発表をうけ,2010年,2011年にヨーロッパ,米国において,相次いで治療ガイドラインがアップデートされた。

心房細動の薬物治療の論点としては,症状に対応するダウンストリーム治療,たとえばレートコントロールと,リズムコントロールの比較が主流であったが,レニン-アンジオテンシン(RA)系阻害薬,スタチンなどによって,心房細動基質にはたらきかける,いわゆるアップストリーム治療に関しても検討されてきた。心房細動を発生させるアップストリームにはたらきかけることで,心房細動発作を予防,軽減できるのではないかという考えだ。

この根拠として頻繁に引用されたのが,大規模臨床試験であるLIFEのサブ解析である(表1)。この解析ではRA系阻害薬による新規心房細動発症の予防効果が示されていた。一方,アップストリーム治療によりRA系阻害薬による心房細動の二次予防効果を検討した試験では,一次エンドポイントで有効性を示したものは少ない(表2)。2010年にJournal of American College of Cardiology 誌に掲載されたメタアナリシスではRA系抑制の意義は一次予防,二次予防,病態によって異なることが示されている(表3)。

2011年3月,New England Journal of Medicine 誌にACTIVE Iが発表された(表2)。ACTIVE IはARBイルベサルタンの心房細動患者における心血管イベント抑制効果を,プラセボ対照で検討した試験である。一次エンドポイントで有意差はみられなかったが,心不全による入院や,入院イベントを抑制した。このことから著者らは,心房細動患者に対するRA系阻害薬を用いた治療では,心不全合併の抑制を重要視すべきではないかとしている。

RA系阻害薬による心房細動治療はこれまでアップストリームを目指していたが,今後はその目的が変わるのかもしれない。

 

表1 サブ解析,post hoc解析でRA系阻害薬の心房細動抑制効果を検討した主な臨床試験
LIFE
(2005年)
ARBロサルタンとβ遮断薬アテノロールの有効性を比較。
対象は心電図上,左室肥大を認める本態性高血圧患者8,831例。
平均年齢は66.9歳。
サブ解析では,ロサルタンはアテノロールより新規心房細動の発症を有意に抑制。
PubMed  循環器トライアルデータベース抄録
VALUE
(2008年)
ARBバルサルタンとCa拮抗薬アムロジピンの有効性を比較。
対象は高リスクの本態性高血圧患者15,245例。
平均年齢はバルサルタン群67.2歳,アムロジピン群67.3歳。
サブ解析では,バルサルタン群で新規心房細動の発症が抑制され,特に持続性心房細動の発症数が少なかった。
PubMed  循環器トライアルデータベース抄録
ALLHAT
(2009年)
Ca拮抗薬アムロジピン,ACE阻害薬リシノプリル,利尿薬クロルタリドンによる降圧療法の致死性冠動脈疾患,非致死性心筋梗塞抑制効果を比較検討。
対象は55歳以上で,高血圧以外に心血管疾患のリスク因子を1つ以上有する39,056例。
平均年齢は67歳。
降圧は3群間で同程度であった。
追跡期間4.9年での心房細動/心房粗動の新規発症率を比較したサブ解析では,群間差は認められなかった。
PubMed  循環器トライアルデータベース抄録

 

表2 心房細動患者に対するARBの効果を検討した主な臨床試験
Madrid AH, et al.
(2002年)
アミオダロン単独と,アミオダロン+ARBイルベサルタン併用の持続性心房細動に対する再発抑制効果を比較検討。
対象は持続性心房細動患者154例。
平均年齢はアミオダロン単独群,アミオダロン+イルベサルタン併用群とも66歳。
併用群では心房細動の再発が有意に抑制された。
PubMed
GISSI-AF
(2009年)
通常治療にARBバルサルタンを追加投与した場合の心房細動の再発予防効果を検討。プラセボ対照。
対象は基礎疾患を有する心房細動患者1,442例。
平均年齢はバルサルタン群67.5歳,プラセボ群68.2歳。
バルサルタンによる心房細動再発予防効果は認められなかった。
PubMed  循環器トライアルデータベース文献抄録
ANTIPAF
(2010年)
ARBオルメサルタンによる心房細動の再発抑制効果を検討。プラセボ対照。
対象は器質的心疾患を有さない発作性心房細動患者425例。
オルメサルタンによる心房細動再発予防効果は認められなかった。
循環器トライアルデータベース学会速報ESC2010
J-RHYTHM II
(2010年)
ARBカンデサルタンと,Ca拮抗薬アムロジピンの発作性心房細動に対する影響を比較検討。
対象は高血圧を有する発作性心房細動患者318例。
心房細動の日数,慢性化,QOLは両群間で差は認められなかった。
PubMed  2010日本循環器学会速報
ACTIVE I
(2011年)
脳卒中高リスクの心房細動患者におけるARBイルベサルタンによる心血管イベント抑制効果を検討。プラセボ対照。
対象は一つ以上の危険因子を有する心房細動患者9,016例。
平均年齢はイルベサルタン群69.5歳,プラセボ群69.6歳。
イルベサルタンによる心血管イベント抑制効果は認められなかった。
PubMed 循環器トライアルデータベース抄録

 

表3 RA系阻害薬の心房細動抑制効果のメタ解析
Schneider MP, et al.
(2010年)
RA系阻害薬の心房細動抑制効果を検討した臨床試験のメタ解析。
対象はACE阻害薬あるいはARBの心房細動の一次,二次予防効果を検討した23試験の参加者87,048例。
一次予防11試験,二次予防12試験。ACE阻害薬試験45,841例,ARB試験41,389例。
■全体
一次,二次予防ともに心房細動発症のオッズ比が33%低下した。
■一次予防
高血圧:RA系阻害薬による心房細動リスクの有意な低下は認められなかった。
心筋梗塞後:ACE阻害薬による心房細動の一次予防効果はみられなかった。
心不全:全体でRA系阻害薬による有意な有効性が認められた。
■二次予防
アミオダロンなどの抗不整脈薬との併用投与例が多く,心房細動抑制率が高かった。
・除細動後:全体では心房細動の有意な再発抑制効果が認められた。大半の試験でも有効性が認められたが,GISSI-AFではARBの二次予防効果はみられなかった。
・薬物治療:全体では心房細動の有意な再発予防効果が認められた。
PubMed  循環器トライアルデータベース抄録

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