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[TOPIC] 第10回東大病院臨床試験セミナーから
『アカデミア主導の臨床試験ネットワークとコーディネーティングセンター』

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ロビー内でのセミナー風景
(左:演者の中村秀文氏,第2部座長も兼任,
 右:第2部座長の荒川義弘氏)

2011年3月11日,東京のタワーホール船堀(江戸川区)にて,第10回東大病院臨床試験セミナー(第10回記念国際シンポジウム)が開催された。東日本大震災当日であったが,発生後も中止することなく,会場をホールからロビーに移して,パネルディスカッションを除くすべてのプログラムを終了した(PDF)。

プログラムは3部から構成され,第1部「臨床研究の活性化策」では,文部科学省,厚生労働省,FDAといった規制当局の臨床研究・臨床試験を促進する方策が示された。第3部「臨床研究コーディネーティングセンター 信頼されるエビデンスの形成の推進」は,文字どおりの内容であったが,特に印象に残ったのは,職種内あるいは関連職種間の円滑なコミュニケーションの重要性が随所で指摘されたことである。

ここでは,第2部「臨床試験ネットワーク:連携による推進」を紹介する。座長の荒川義弘氏(東京大学医学部附属病院臨床研究支援センター)は,「循環器疾患のアウトカムスタディなどでは有意な結果を得るためには非常に多くの登録者を必要とするため,ひとつの病院だけでは臨床試験・臨床研究が成立しにくい」と述べ,ネットワークの必要性を指摘した。(編集部)

1) 花岡英紀氏 (千葉大学医学部附属病院臨床試験部)
“大学病院におけるネットワーク:UHCT Alliance”

UHCT(University Hospital Clinical Trial)アライアンスは,群馬大学,信州大学,千葉大学,筑波大学,東京医科歯科大学,東京大学,新潟大学の7大学による連携であり,新薬承認での日本の遅れを解消することを目的にして2006年に結成された。当時は,日本では国際共同試験がまだほとんど実施されておらず,ドラッグラグの解消のため,国際共同試験参加の必要性が高まっていた。

UHCTアライアンスは全体で5870床,外来患者数13962人となり,治験実施の可能性や候補患者数について打診されれば,約1週間で返答できる。情報の共有化のために,テレビ会議システムを利用し,推進室会議や共同プロトコール説明会,実務者ミーティング,進捗向上委員会などが行われていて,現在,約40のプロトコールが進行中である。

7大学の主な分担として,東京大学がハブ的役割を果たす事務局を設置するとともに国際化を担当し,東京医科歯科大学が広報活動,群馬大学が研究者教育,新潟大学が国際化を踏まえたCRCの能力向上,千葉大学が安全性レポートのためのITシステムの開発,筑波大学がQC/QA導入,信州大学が中央IRB導入,および申請書類や手順の標準化と簡略化の推進を,それぞれ行っている。

2) 吉澤弘久氏 (新潟大学医歯学総合病院生命科学医療センターちけんセンター部門)
“新潟大学臨床研究ネットワーク”

新潟大学医歯学総合病院は,大学内に脳研究所を置き,米国・イギリスをはじめ世界各地に姉妹施設をもつ。また,UHCTアライアンスの一員でもある。

新潟県は,上越・中越・下越の3つの診療圏に大きく分かれているが,呼吸器内科医として「新潟県内の呼吸器専門医全員と同じ釜の飯を食べた」と自負する吉澤氏は,肺癌治療を中心に,地方における臨床研究・臨床試験の実施状況について報告した。脳研究所との連携による臨床研究の実例も示された。

3) 大橋京一氏 (大分大学医学部附属病院臨床薬理センター)
“臨床薬理試験におけるネットワーク: J-CLIPNET”

Japan Clinical Pharmacology Network for Global trials(J- CLIPNET)は, 2007年に6大学の臨床薬理の専門家たちによってつくられた。6大学とは,愛媛大学,大分大学,北里大学,昭和大学,聖マリアンナ医科大学,浜松医科大学であり,その後,オランダ,韓国,中国など,海外の医療施設とも連携する。J-CLIPNETは,新薬の国際共同開発を活性化させるべく,第III相試験のみならず,臨床薬理試験やPOC(コンセプト証明)試験を含む早期臨床試験への積極的な参加の促進に取り組んでいる。主な特徴は,早期臨床試験専用病床を有すること,FIH (first in human) 試験が可能であること,共通のデータマネジメントシステムのPromasysで結ばれていること,などである。人材育成にも取り組み,2012年度には共同IRBが稼働予定である。

4) 中村秀文氏 (国立成育医療研究センター臨床研究センター治験推進室)
“小児臨床試験におけるネットワーク”

小児では,症例数が少ないこと,企業の収益性の問題等により治験数が少なかったため,小児の薬物療法にはエビデンスが少なく,常に適応外使用や承認範囲外使用といった問題を抱えてきた。この問題を解決するべく行われている連携が紹介された。

国立成育医療センターは研究所と病院からなり,2010年の独立法人化に伴い,国立成育医療研究センターと名称が変わり,臨床研究センターが開設された。国立成育医療センターはそれまでも治験の中核病院として,小児治験・臨床研究体制の整備,拠点医療機関との連携を図ってきたが,以降,臨床研究センターが中心となり,その機能を担っている。臨床研究センターは,医師に対して医師主導治験のプロジェクトマネジメント業務などを行うほか,小児医薬品や医療機器で,関連学会との連携によるニーズの把握や,企業に対する開発アドバイスや治験実施,承認申請なども支援する。国立成育医療研究センターは,特定領域治験等連携基盤整備事業により,2010~2012年に基盤を整備する臨床研究機関として選定され,さらなる体制整備に取り組む。

日本小児科学会薬事委員会は,日本小児科学会関連20分科会と連携し,アクションプランのひとつである「小児治験の体制整備への働きかけ―医師主導治験への積極的取り組み」を行い,また全分科会の活動をコーディネートし,規制当局や製薬企業等に対する医薬品関係の窓口としても機能している。文部科学省・厚生労働省による「新たな治験活性化5カ年計画」では,小児科領域においても治験中核病院・拠点医療機関の整備が図られている。また治験以外での臨床試験のネットワークとしても,31施設が登録されランダム化比較試験(RCT)や長期観察研究が実施されている日本新生児臨床研究ネットワーク(NRN Japan)や,159施設が参加し6つのRCTが進行している日本小児腎臓病臨床研究グループ(JSKDC)などがあり,専門領域別の体制整備が進んでいる。

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