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[トピックス] ノバルティスファーマ メディアフォーラム
「2型糖尿病DPP-4阻害薬登場による臨床の変化と期待」

2009~2010年にかけて,新しい2型糖尿病治療薬が相次いで発売され大きな注目が集まった。そのうちのひとつであるビルダグリプチン(発売:ノバルティスファーマ株式会社,商品名:エクア®)は発売から1年が経過し,2011年5月1日より長期処方が可能となった。こうしたなか,5月23日,「2型糖尿病 DPP-4阻害薬登場による臨床の変化と期待」をテーマとしたメディアフォーラムが開催され,小田原雅人氏(東京医科大学),大西由希子氏(朝日生命成人病研究所)による講演が行われた。主催はノバルティスファーマ株式会社である。

ビルダグリプチンの作用メカニズムと特徴

糖尿病治療においてもっとも重要なのは,血糖をコントロールし,糖尿病性細小血管障害(腎症,網膜症,神経障害)や大血管障害(冠動脈疾患,脳血管障害),末梢血管障害を抑制することである。過去に行われたDCCTやUKPDSなどの大規模臨床試験では,HbA1cの上昇とともに合併症の発生率が高くなるが,糖尿病発症初期に介入し血糖コントロールを行うことで,このリスクが抑制されることが明らかとなり,早期からの血糖コントロールの重要性が示されている。

血糖コントロールには,これまで主として5種類の経口血糖降下薬(スルホニル尿素[SU]薬,ビグアナイド薬,α-グルコシダーゼ阻害薬,チアゾリジン誘導体,速効型インスリン分泌促進薬)が用いられてきた。しかし,これらの薬剤では,HbA1c低下作用が十分に示されない症例もみられた。また副作用やβ細胞の疲弊などの問題も指摘されており,新たな治療薬が待ち望まれていた。

1990年代より,新規糖尿病治療薬としてインクレチン製剤が開発されてきた。インクレチンは小腸から放出される消化管ホルモン(glucose-like peptide-1[GLP-1],glucose-dependent insulinotropic peptide[GIP])である。消化管から栄養素が取り込まれると放出され,インスリン分泌を促す作用を有する。

一方,インクレチンはジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4)によってすばやく分解されるため,血中半減期は非常に短い(関連記事)。

ビルダグリプチンはこのDPP-4に結合することにより,活性型GLP-1を増加させてインスリン分泌をより促進する作用を有する。同時に,血糖上昇にはたらくホルモン,グルカゴンの分泌を抑制する作用も有しており,この2つのメカニズムにより,強力な血糖降下作用を示すと考えられている。これらの作用は,食後血糖だけでなく,空腹時血糖に対しても有効であり,一日の血糖プロフィールを大幅に改善することが可能である。一方で,この効果は血糖依存的にはたらくため,血糖値の低いときは効果が減弱し,低血糖のリスクが少ないという特徴もある。また,動物実験ではビルダグリプチンは膵β細胞を増加させることが示されている。さらに,ビルダグリプチンは他のDPP-4阻害薬と比べ未変化体の尿中排泄率が23%と低いため,腎機能低下例に対しても安全に使用できると考えられている。

小田原氏は「ビルダグリプチンは現在,インスリン分泌促進薬として位置付けられているが,食後高血糖を改善する作用もある。将来的にβ細胞保護作用が示されれば,糖尿病の初期の症例から進行例まで,標準的な治療薬となる可能性が非常に高い」と期待を寄せた。

ビルダグリプチンの治験成績

大西氏からは丸の内病院で行われたビルダグリプチンの治験成績について紹介された。まず,12週間の短期試験では,ビルダグリプチン単独投与およびビルダグリプチン+SU薬グルメピリド併用投与により,HbA1cが1%以上低下した。21ヵ月以上の長期試験でも,ビルダグリプチン単独投与による大幅なHbA1c低下作用がみられた。ただし,この効果は食事・運動療法が遵守されないと発揮できないことも示された。

こうした使用経験から,ビルダグリプチンはインスリン分泌を促すが,その作用は血糖依存的であり,単独治療では低血糖を起こしにくいこと,またSU薬との併用により相加的,相乗的にインスリン分泌が促進されることが画期的な点としてあげられた。ただし,必ずしもすべての症例に有効というわけではなく,食事・運動療法の継続が重要であることも指摘された。

大西氏は「これまではSU薬が有効ではない患者に対しては,インスリン治療をするしかなかったが,新たな治療選択肢が加わったことには大きな意義がある」と評価した。

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