ランダム化比較試験(RCT)や,それに対するシステマティック・レビューは,治療効果を評価するゴールド・スタンダードであり,臨床での推奨の基礎となるものであると考えられている。しかし,単施設でのRCTでは,多施設のRCTと比べ,治療効果が高く示されることが,Dechartresらの行ったメタ疫学研究により明らかとなり,2011年7月のAnnals of Internal Medicine誌に報告された[PubMed]。
この研究では,MEDLINEから,2008年~2010年上半期に各医学領域の主要ジャーナル10誌に発表されたメタアナリシスと,それぞれのメタアナリシスに含まれているRCTを検索した。メタアナリシスの情報(発表日,ジャーナル,資金源,専門分野,対象としたRCTの数)と,RCTの情報(発表日,ジャーナル,資金源,サンプルサイズ)を収集し,Cochrane Collaborationの開発したバイアス・リスク測定ツールを用いて評価した。
単施設と多施設のRCTの治療効果の差を測定するため,オッズ比の比(ROR)をプライマリーエンドポイントとした。RORが1よりも小さい場合,単施設RCTでの治療効果が多施設RCTよりも大きいことになる。
検索の結果,この研究の対象となったのは,メタアナリシス48件と,それに含まれるRCT 421試験であり,そのうち,単施設RCTは223試験,多施設RCTは198試験であった。単施設RCTと多施設RCTのRORは0.73(95%信頼区間 0.64-0.83,P<0.001)であり,単施設RCTの治療効果は多施設RCTよりも27%程度大きくなることが示された。
研究結果の詳細をみると,一つのメタアナリシスに含まれる平均RCT数は7試験で,オッズ比は0.10~1.59であった。治療内容は,薬物治療が28件,非薬物治療が20件であった。RCTについては,単施設RCTでは,多施設RCTに比べサンプルサイズが小さく,発表年代が古く,バイアス・リスクが高いという特徴がみられた。
多施設RCTよりも単施設RCTでの治療効果が大きくなる理由にはいくつかの可能性があるが,その一つとして,単施設RCTでは多施設RCTとは試験対象やプロトコルが異なることがあげられる。単施設RCTでは多施設RCTよりも厳選された患者が対象となり,エキスパートにより実施されることが多いため,大きな治療効果につながると考えられる。非薬物治療においては,医師の技術レベルが治療効果に大きな影響を与えるため,とくに大きな意味をもつ。その他に,単施設RCTでは,バイアスがかかりやすく,また方法論的な質が低いことも原因になりうる。
Dechartresらは「すべてのメタアナリシスを解析できたわけではない」と限界について指摘しながらも「今回の研究から,RCTであっても,単施設での試験の結果はバイアスがかかりやすいことが示された。おもに単施設RCTに基づいてメタアナリシスを行ったり,診療ガイドラインを作成することは,極力避けなければならない」と結論づけている。