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[TOPIC] アボット ジャパン株式会社・エーザイ株式会社共催 プレスセミナー
最新研究から見える関節リウマチ治療の展望

photo田中良哉氏

2011年10月27日,アボット ジャパン株式会社・エーザイ株式会社の共催によるプレスセミナーが開催され,産業医科大学医学部第一内科学教授の田中良哉氏が講演した。関節リウマチ(RA)の患者数は70万~100万人と推定され,男女比は1:4~4.5と女性に多いものの,30~40代の,いわゆる働き盛りに好発する社会的損失の大きい疾患である。現在,RA治療は著しく進歩し,“ Treat to Target (T2T) ”とよばれる概念が提唱されている。T2Tの概要とともに,HARMONY試験の成果などが紹介された。

Treat to Target とは

従来のRA治療は消炎鎮痛薬(NSAIDs)や少量ステロイド薬を用いた対症療法で,痛みや腫れといった臨床症候の軽減がその目標とされていた。近年,抗リウマチ薬(DMARDs)や生物学的製剤の登場により根本治療が可能となって,平成23年8月31日付健康局疾病対策課長通知「リウマチ対策の方向性等」によりリウマチ対策が見直されたように,RA治療では完全寛解が現実的な目標として視野に入ってきた。

T2Tとは「目標達成に向けた治療」と訳され,具体的な数値目標を設定したうえで疾患活動性を定期的にモニタリングしながら治療を行い,一定期間経過後,目標を達成しない場合には治療変更を行うといった治療戦略である。すでに高血圧治療や糖尿病治療では一般的だといえるが,RA治療においてT2Tの普及は多国籍共同のプロジェクトとして展開されている。プロジェクトのひとつとして作成された国際的な治療戦略が,エビデンスと専門家の意見を基に作成された10のリコメンデーションとして推奨されている。わが国でも翻訳され, 2011年4月には患者版が配付されている。

患者に特に理解してもらいたいステートメントは,「1.関節リウマチ治療の目標は,まず臨床的寛解を達成することです」,「4.薬物治療の内容は,治療目標が達成されるまで少なくとも3カ月ごとに見直されます」,「6.日常診療における治療方針の決定には,関節の診察を含む総合的な疾患活動性のチェック法を用いることが必要です」,「8.設定した治療目標に到達した後には,関節リウマチの全経過を通じてその状態を維持し続ける必要があります」,「10.患者は,リウマチ医の指導のもとに,「目標達成に向けた治療(T2T)」について適切に説明を受けなければなりません」の5つである。

Treat to Target がめざすもの

T2Tの実現には,診断および治療上の的確な評価が前提となる。その入り口となる診断基準には,米国リウマチ学会(ACR)/EUリウマチ学会(EULAR)が作成した2010年RA分類基準がある。一方,ゴールである寛解の評価には,2010年ACR/EULAR RA寛解基準が使用されている。入口からゴールまでの過程がT2Tとなり,世界中のどこにいても標準化された治療を受けられるようにすることが,その普及活動の目的である。

患者のQOLを著しく損なう関節破壊は発症早期から生じ,罹病期間が長期になればなるほど,不可逆的な関節変形が進行する。今回のプレスセミナーでは,発症早期のRA患者を対象にした2つの国内臨床試験結果が紹介された。

2011年9月の日本臨床免疫学会で発表されたHARMONY試験(Humira Action in RA Management Observed in the Second Year after the Launch)は,アダリムマブ治療が疾患活動性,関節破壊機能障害に及ぼす影響をレトロスペクティブに研究したもので,産業医科大学を含む国内の4大学で実施された。治療開始から6カ月,12カ月後の改善を,3.3以下になると疾患活動性がない臨床的寛解とされるSDAI(Simplified Disease Activity Index)を用いて評価している。開始時の平均スコアは23.5±14.3(N=163)であったが,6カ月後に7.0±6.5(N=138,臨床的寛解は36.2%, LOCF 33.7%),12カ月後には5.6±5.2(N=125,臨床的寛解は46.4%, LOCF 39.3%)に改善した。

2011年6月のEULAR ではOPTIMA試験(Optimal Protocol for Treatment Initiation With Methotrexate and Adalimumab Combination Therapy in Patients With Early Rheumatoid Arthritis)が発表された。この日本版ともいうべきHOPEFUL試験は,メトトレキサートの使用経験のない早期RA患者(N=334)を対象にして,アダリムマブとメトトレキサートの併用群とメトトレキサート単独使用群とを26週間後に比較したものである。アダリムマブの併用群が関節破壊の進行抑制が有意に高いことが示された。DAS28-ESR(Disease Activity Score-赤血球沈降速度)により臨床的寛解(2.6>)に入った患者は約3割であったという。

これまでの病診連携を逆転させるT2T

RAは,関節だけの整形外科的な疾患ではなく全身性の内科的疾患で,自己免疫性疾患(膠原病)のひとつである。RAの定義は,将来慢性化する,あるいは将来破壊性となる関節炎であるが,関節炎をきたす疾患は数多く,膠原病および膠原病類縁疾患のほか,脊椎炎または仙腸関節炎を伴う関節炎,変形性関節症,感染症に伴う関節炎,結晶性関節炎などに大きく分類され,疾患名は30以上存在している。そのなかからRAを鑑別するには,専門的知識と経験が不可欠となる。

一般の人々はこれまで,リウマチを疑ったら,かかりつけ医を受診するようにと指導されてきたが,T2Tでは,RA専門医への受診が求められる。RAは発症早期からの厳格なコントロールが必要な疾患で,RA専門医が寛解の導入を図り,寛解の維持をかかりつけ医が担当するという流れに逆転したのである。

RA治療の進歩は,疾患活動性が消失する臨床的寛解,関節破壊が進行しない構造的寛解,機能障害が進行しない機能的寛解からさらに進み,バイオ(生物学的製剤)フリー寛解,薬剤フリー寛解まで期待できるほどになった。RAは「不治の病」とされてきたが,生物学的製剤の開発・普及がそれを一掃しつつあるが,まだ一般に浸透しているとはいえない現状である。T2Tのさらなる普及が期待されている。

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