睡眠時間と死亡率には,7~8時間を底点とするJカーブの関連があることが1970年代から報告されているが,近年,循環器疾患と睡眠にも同様の関連があることが報告されている。睡眠と関連疾患およびその治療の現状について,3月9日東京にて,「眠りとは?睡眠と循環器疾患」と題するワークショップが行われ,井上雄一氏(東京医科大学),塩見利明氏(愛知医科大学)が講演した(座長:山口徹氏 [虎の門病院])。
睡眠の役割については「身体の休息のため」と思われがちである。実際,よく身体を動かした日ほどよく眠れるが,睡眠の真の目的は「脳を休めること」であると考えられている。一晩の睡眠中には,浅い眠りである「レム睡眠」と深い眠りの「ノンレム睡眠(1~4段階に分類される)」が数サイクル繰り返される。
近年,睡眠障害が健康障害を発生させることを裏付ける種々のデータが報告されている。たとえば,睡眠時間が短い人ほど,動脈の石灰化が高頻度であり,健常人でも睡眠不足は耐糖能を悪化させるという報告がある。また,高血圧,心疾患などの循環器疾患リスクと睡眠時間とは7~8時間を底点とするJカーブの関連にあることが明らかになっている。睡眠時間とうつ症状の頻度にも同様のJカーブの関連が認められており,睡眠障害の治療は現代社会において極めて重要な役割を果たすと考えられる。
睡眠障害に対する治療薬として,日本では現在13種類の薬剤が承認されている。睡眠薬はおもに入眠障害に有効である一方,中途覚醒には効果が低く,また,薬剤を中止すれば不眠を再発することが多い。これに対し,井上氏,塩見氏らは2006年から心理教育,睡眠に関連する基本的な生活指導などに基づく「認知行動療法」を開始している。同療法では専門医による指導で生活習慣を改善することを目的としているが,再発率が低く,入眠障害,中途覚醒,総睡眠時間,睡眠効率のいずれに対しても有効であることが報告されている。井上氏は「始まってから10年足らずと日は浅いが,有効な治療であることは明らかであり,保険適用化に向けて積極的に取り組みたい」と語る。
また,井上氏が研究代表者を務めるSCCS(The Sleep and Cardiovascular disease National Prospective Cohort Study)研究会では,日本心臓財団の援助を受けて,睡眠時無呼吸症を中心とした睡眠障害症例の大規模症例登録研究を実施している。本年6月までに5,000例が登録される予定で,後向き解析により日本人における精神および身体(とくに循環器系)の合併症について検討される。井上氏は「欧米人の睡眠時無呼吸症患者の9割が肥満者であるのに対し,日本人の睡眠時無呼吸症患者の41%はBMI<25kg/m²である。この割合のちがいによる影響なども検証し,この登録研究の結果をベースに前向き介入試験を実施する」と述べた。