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[トピックス] 
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版(6月刊行予定)
—改訂のポイントが発表される。

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日本動脈硬化学会では,現在,6月刊行予定の動脈硬化性疾患予防ガイドラインの改訂作業が大詰めを迎えている。2007年版の刊行から5年ぶりとなる今回の改訂について,4月26日(木),日内会館(東京・本郷)において記者会見が行われ,日本動脈硬化学会ガイドライン委員長の寺本民生氏(帝京大学)らがおもなポイントについて紹介した。

写真左より 日本動脈硬化学会理事長・北徹氏
同ガイドライン委員長・寺本民生氏
同広報委員長・佐々木淳氏

絶対リスク評価の導入

前回までのガイドラインでは,患者カテゴリーを「健常者に対する相対リスク」によって分類してきた。しかし,対照者に比し何倍のリスクがあるかを示す相対評価では,「今後イベントを起こす確率そのもの」を把握することはできない。そのため,今回の改訂では,疫学調査研究NIPPONDATA 80の絶対リスクによるリスク評価チャートが採用される。海外ではすでにNCEP-ATPIII(米国),Canadian Guideline 2009(カナダ),ESC/EAS 脂質異常症管理ガイドライン(ヨーロッパ)等において絶対リスク評価による患者カテゴリー分類がなされており,ガイドライン委員長の寺本民生氏(帝京大学)は「今回一番やりたかった変更が絶対リスクの導入だった」と明かした。改訂版冊子には,患者のデータを入力すると絶対リスク,相対リスクが表示されるソフト(CD-ROM)も添付されるという。

関連学会のリエゾン委員とともに包括的リスク管理チャートを作成

また,動脈硬化性疾患の予防・治療において,関連疾患をふまえた対応は不可欠であることから,今回,生活習慣病関連の8学会(日本糖尿病学会,日本腎臓学会,日本体力医学会,日本脳卒中学会,日本高血圧学会,日本肥満学会,日本老年医学会,日本疫学会)のリエゾン委員とともに「動脈硬化性疾患予防のための包括的リスク管理チャート」を作成。一次予防のためのスクリーニングからリスクの層別化,各疾患の管理目標値,治療法などが一元化されており,寺本氏らは臨床現場での活用を強く期待している。

「スクリーニングのための」診断基準

本改訂版での診断基準には「スクリーニングのための」という接頭辞がつけられた。これは,この診断基準が治療開始の基準ではなく,初期のスクリーニングに用いられるべきことを意図しての対応だ。そもそもLDL-C値の基準値の根拠となるエビデンスはすべて高リスク患者を対象とした研究であり,低リスク患者の場合はたとえ基準値を超えていても治療対象にならないことがある。一方,糖尿病や脳梗塞既往例などの高リスク患者の場合,早期からの治療介入が有用とされていることから,リスクに応じて判断する境界領域(LDL-C値 120~139mg/dL)も設定された。

脂質管理目標値にnon HDL-C値を導入

今回,LDL-C値で判断できない場合の二次的判断基準としてnon HDL-Cの管理目標値(LDL-C管理目標値+30mg/dL)が導入される。エビデンスが豊富なLDL-Cに比べるとnon HDL-Cによる診断の科学的な裏付けは発展途上であるものの,とくに高トリグリセライド血症患者の診断にはnon HDL-C値が有用とする報告が相次いでいる。また低HDL-C血症患者においても,LDL-C値に加えてHDL-C値も評価することによりリスク予測能が高まることが報告されている。

LDL-C測定法として,原則F式を推奨

LDL-Cの測定法について,前回のガイドラインでは多くの施設で直接法による測定が行われていることから「直接法も可」とされてきた。しかし,直接法ではFriedewald式(F式)による測定法を上回る精度が認められないことから,今回の改訂では原則としてF式によるLDL-C値を用いることを推奨するように変更された。

一次予防の薬物療法はLDL-C>180mg/dLが持続した場合に考慮

治療法(薬物療法)についての変更点としては,今回,「一次予防においても,LDL-Cが180mg/dL以上を持続する場合は薬物療法を考慮する(推奨レベルIIa,エビデンスレベルC)とのステートメントが記載される。これには逆説的に,180mg/dL未満であれば,高リスク症例でない限り薬物治療を一律に開始しなくてもよいとのメッセージが込められている。これまで,とくに閉経によってLDL-C値が上昇した女性に対して薬物治療がすぐに開始されるケースが多かった。寺本氏は「薬物療法を開始する前に,個々の患者のリスクを見極め,非薬物療法も積極的に導入して欲しい」と述べた。

高リスク病態の診断と管理

今回は,家族性高コレステロール血症(FH)が独立した章にまとめられた。これは,近年,FHと診断されず十分な治療を受けていないFH患者が急増しているためである。寺本氏らによる約2万例を対象とした調査では,2002年にFH患者は3.4%を占めていたのに対し,2011年には0.5%に落ち込んだ。これは,近年のストロングスタチンの登場により,FHの場合もある程度はLDL-C値を下げられるようになったため,FHと診断されていないものと考えられる。寺本氏らはこの傾向に強い懸念を示している。今回の改訂版では,FHの診断法に併せ,家族調査や小児FHの診断基準についても記載される予定。
また,慢性腎臓病(CKD)についても,病態概念が確立し,糖尿病に匹敵するリスク病態であることが判明したことから,高リスク病態として取り上げている。

頸動脈超音波検査の推奨

動脈硬化性疾患の一次予防における動脈硬化の診断法として,今回新たに頸動脈超音波検査の有用性について触れられる。「現在のところ十分に普及していないため推奨レベルは付けなかったが,今後普及させたいというメッセージを込めて記載した」と寺本氏は述べた。

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