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Braunwaldが語る循環器病学の100年
Braunwaldが語る循環器病学の100年

2012年3月に開催された米国心臓病協会にて,Eugene Braunwald氏が急性心筋梗塞治療の100年の歩みと将来展望を語った。Braunwald氏は,循環器病学の革新的発展を導いてきた人物であり,その過去と未来を語れる唯一の人物である。

近代循環器病学の幕開け

ちょうど100年前になる1912年,James Herrick氏が歴史上初めて心筋梗塞という病態を捉えた症例報告を行いました。このとき同氏が述べたのは,「心筋梗塞患者には数日間の床上安静が必要である」というものです。近代循環器病学のはじまりともいえるこの症例報告が行われた当時,「数日間の床上安静」が治療のすべてでした。

やがて「心筋梗塞」は多くの医師に認識されるようになり,私がインターンになった1952年には,来院したすべての心筋梗塞患者が入院するようになります。しかし,治療の進展はほとんどありません。身体的安静のほか,精神的安静も重要だとされ,心筋梗塞患者は慌ただしいナースステーションから最も離れた病室に入院していました。早朝に病室をまわると担当していた患者の何人かが,夜の間に静かに息を引き取っていたことを思い出します。記録された当時の院内死亡率は30%,病院に到着する前の死亡率についてはまったくの不明でした。

冠動脈疾患集中治療室(CCU)が設置されるようになったのは,1960年代のことです。初期のCCUにはモニターとアラームが設置され,患者になんらかの異常が認められたときに,心肺蘇生の訓練を受けたスタッフが駆けつけました。患者の急変を察知し心肺蘇生を行うことで,一次性心室細動による死亡が激減し,心筋梗塞患者の早期死亡率は半分になりました。しかし,心筋梗塞そのものへの治療法は皆無でした。

心筋梗塞治療の開拓の50年

その後,循環器病学の基礎研究が急速に発展すると,私たちの研究グループを含め,心筋梗塞後の梗塞サイズを小さく留めるための研究が盛んに行われるようになります。当時,心筋の梗塞サイズには「心筋量」と「閉塞動脈の再灌流」が関与することがわかっていましたが,私たちはさらに,心筋の「酸素消費量」の影響にも注目していました。実際に,β遮断薬によって酸素消費量を少なくしたうえで再灌流を促すと,梗塞サイズがきわめて小さく留まることを動物実験で示すことができたのです。それは,酸素の需要と供給のアンバランスが梗塞サイズに大きく影響することを示す新たな発見でもありました。これが約50年前,1971年ごろのことです。

一方,旧ソビエト連邦のEugency Chazov氏らは,急性心筋梗塞患者の閉塞動脈にストレプトキナーゼを直接注入し,血栓を溶解することに成功しています。当時の治療アプローチとしては,非常に思い切った方法だったと思います。しかしその直後,TIMI試験によって梗塞責任動脈の開存が長期生存率を改善することが示されます。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の登場により血栓溶解療法は行われなくなり,ステントの登場によりバルーン血管形成術は過去のものとなりました。過去25年間で,心筋梗塞患者の早期死亡率は約75%減少したともいわれています。

新たな挑戦

最後に,私が注目している新たな治療アプローチについて述べたいと思います。一つめは,再灌流障害への挑戦です。現在までに,遠隔虚血プレコンディショニングとシクロスポリンA静注という二つの方法に手応えのある展望が見いだされています。

二つめは,薬物溶出性ステント留置後の再閉塞の予防です。ATLAS II ACS TIMI 50試験で検討した新規Xa因子阻害薬リバーロキサバンは,PCI施行後の2剤抗血小板療法への上乗せ投与により,心血管死発生を41%有意に抑制しました。懸念された出血リスクは,たしかに上乗せ投与によって増大しましたが,致死性出血や頭蓋内出血の増加はみられていません。本剤は,心筋梗塞の二次予防として有望な薬剤だといえるでしょう。

三つめは細胞治療です。小規模研究ではありますが,骨髄由来前駆細胞(BMDPC)の注入により,梗塞サイズは小さく,左室駆出率が改善することがREPAIR試験で認められました。現在,約3000例を対象としたBAMI試験が計画され,2012年に欧州全域で患者登録が開始されます。細胞治療の発展は今後ますます加速し,われわれに重要な知見と治療選択肢を与えてくれることでしょう。

おわりに

Herrick氏が心筋梗塞という病態を認識してから100年がたち,心筋梗塞治療は大きな発展を遂げました。しかしそれでもなお,米国において心筋梗塞は重大な死因であり続けており,この25分間の講演の間にも,44人の米国人が心筋梗塞を発症し,6人が命を落としています。今後のさらなる研究の歩みが,患者救済につながることを願ってやみません。

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