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[トピックス] 
トランス脂肪酸摂取ゼロめざせ
—日本動脈硬化学会がコレステロール,飽和脂肪酸,トランス脂肪酸の栄養成分表示義務化を提言

2013年4月16日,日本動脈硬化学会は食品栄養成分表示について「脂質」の表示に加え,動脈硬化性疾患発症のリスクとなる「コレステロール」「飽和脂肪酸」「トランス脂肪酸」の表示を義務づけるよう,要望書を阿南久消費者庁長官に提出した。

トランス脂肪酸は,たばこと同様,摂取量ゼロを目指す

日本動脈硬化学会理事長
寺本民生氏

トランス脂肪酸(トランス型の不飽和脂肪酸)は天然植物油にはほとんど存在せず,おもにシス型の植物油に水素を添加して常温で固まるようにした硬化油(マーガリンやショートニング)を製造する際の副産物として生成される。飽和脂肪酸摂取時にくらべてLDL-C/HDL-C比を約2倍にすることや,動脈硬化の危険因子であるLp(a)を増加させること,血管内皮機能を障害させることや,インスリン抵抗性を悪化させることが報告されている。

米国,カナダ,その他南米やアジアの数ヵ国では,すでに栄養成分表示にトランス脂肪酸の記載が義務づけられているが,日本ではこれまで,日本人のトランス脂肪酸摂取量は少ないとの見解から表示規制が見送られてきた。

しかし,獣脂の摂取が少なく,近海の魚や植物由来の多価不飽和脂肪酸を多く摂取する「日本食」であればトランス脂肪酸摂取量は少ないと考えられるものの,近年の食の欧米化により,とくに若年者ではトランス脂肪酸摂取量が急増していることが予想される。冠動脈疾患の予防や食育のためにもトランス脂肪酸の表示を義務化することが必要,と同学会理事長の寺本民生氏はいう。

加えて寺本氏は,近年米国人のコレステロール値が減少した背景にはトランス脂肪酸規制があるとの報告を紹介。またハンガリーで肥満対策としてポテトチップス税が導入されたように,社会制度化することは国民の健康維持に有効であるとの考えを述べた。

このトランス脂肪酸の表示はたばこと同様,摂取量をゼロにすることを目的としたものであり,同学会は要望書のなかで,表示規制だけではなく厚生労働省と連携して販売規制を設定するように併せて訴えている。

現在表示されている「脂質」の総摂取量を低下させても冠動脈疾患は減少しない

また,現在日本の栄養成分表示で記載されている「脂質」は中性脂肪やコレステロール,脂肪酸の総称であり,摂取脂質総量を低下させても冠動脈疾患は減少しないことがランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスで報告されている。一方,飽和脂肪酸の摂取量を減少させ,多価不飽和脂肪酸の摂取量を増加させた場合は,血清コレステロール値の低下とともに,冠動脈疾患リスクが低下することがRCTのメタアナリシスで認められており,なかでも魚油に多く含まれるn-3系の多価不飽和脂肪酸の摂取が冠動脈疾患のリスクを低減させることは多くの臨床試験で証明されている。

コーデックス規格(国連食糧農業機関(FAO),世界保健機関(WHO)合同の国際的な食品規格)では,飽和脂肪酸の摂取量を低減させるように求めており,北米や南米,オーストラリア,韓国,台湾,香港,マレーシアではすでに成分表示が義務化されている。また,米国,カナダ,韓国,ウルグアイ,アルゼンチン,パラグアイ,ブラジル,香港,台湾などに食品を輸出している日本の食品企業はすでに「飽和脂肪酸」「トランス脂肪酸」の表示を実施しており,寺本氏は「海外の消費者だけなく,国内の消費者の健康のためにもぜひ表示して欲しい」と述べた。

本要望書には,日本高血圧学会,日本循環器学会,日本小児科学会,日本腎臓学会,日本糖尿病学会,日本肥満学会も同意している。消費者庁では5年後を目処に義務化を目指す方向で検討されているという。

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