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[トピックス] 第7回日本循環器学会プレスセミナー
(2013年9月24日・東京)
早急な構築が求められる成人先天性心疾患患者の診療体制

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第7回を迎えた日本循環器学会プレスセミナーは,テーマとして成人先天性心疾患(ACHD)をとりあげた。先天性心疾患の患児は,心臓外科手術の発達・内科治療の進歩によって90%以上が成人期を迎え,推定ではすでに40万人以上の成人先天性心疾患患者が存在する。これまでは成人であっても小児科医がフォローしてきたが,成人期特有の問題が生じ新たな治療が必要となるなど,循環器内科専門医の参入が期待されている。同プレスセミナーでは,福田恵一氏(慶應義塾大学医学部循環器内科教授)が座長を務め,新たな診療体制の整備をふまえて,同領域の専門家らによって最先端の治療を含めた現状が紹介された。

講演1「ACHDの問題点と将来」(総論)

丹羽公一郎氏(聖路加国際病院心血管センター長・循環器内科部長)は次のように口火を切った。

「治療の進歩により,複雑な先天性心疾患患者さんも成人として社会参加できるようになりました。初期に手術を受けた方はいま,50~60歳です。ACHD患者は毎年約1万人ずつ増加しており,先天性心疾患患者は成人が小児を上回っています。
先天性心疾患の修復術後は,小児期には無症状であっても,加齢による影響を受け,心不全や不整脈を伴うようになり,薬物治療,カテーテル治療,再手術が必要になることが少なくありません。さらに,社会生活,妊娠・出産,高血圧,加齢による影響など,成人期特有の問題が生じ,それらが予後やQOLに影響することがわかってきました。成人期の問題点は,小児とは異なることが明らかになり,ACHDは新しく大きな循環器分野のひとつとなっています。」

その後,丹羽氏は,ACHDの医学的社会的問題点,ACHD患者の自立を妨げる要因,ACHDのチーム医療体制など,実際のデータをまじえて概括した。

講演2「ACHDの合併症と対応」

立野滋氏(千葉県循環器病センター成人先天性心疾患診療部部長)は,まずACHD患者の死亡原因として突然死に注目し,突然死の主な原因は不整脈であると述べた。

「先天性心疾患患者の管理では,心不全や,不整脈・突然死などの合併症の予測・早期発見が重要で,予防や早期治療により,罹病率や死亡率の低下,QOLの改善が見込めます。」

先天性心疾患術後遠隔期の合併症を管理するにあたっては,「複雑先天性心疾患のなかで最も多いファロー四徴症では,加齢に伴って,心内修復術を受けた肺動脈弁の形態変化・機能不全が生じ,右心系の障害,心不全・不整脈などの合併症が増加するので,これらに対する治療として,薬物治療などの内科的治療だけではなく,再手術が必要となる場合があります。」

三尖弁閉鎖による重度のチアノーゼに対して,1990年以前は右心房と肺動脈を直接つなぐFontan術が施行されていた。Fontan術後の患者では,不整脈や血栓塞栓症,うっ血性心不全による全身症状などの問題が生じている。こうした例ではTCPC変換術という人工血管を用いた手術が必要となることがあり,早期に行うことで不整脈の抑制,生存率の上昇が得られているという。

ACHDの合併症の管理では,生命予後やQOLの改善のために,心疾患の十分な理解と,患者の受けた手術方法,術後の病態のほか,手術時期や加齢変化により多様化した患者の病態を把握し,手術を含む適切な治療を適切な時期に行うことが重要であるとされた。

講演3「ACHDの妊娠・出産」

池田智明氏(三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座 産科婦人科学)は,周産期医療,新生児医療,不妊医療の着実な進歩により,挙児を希望するACHD女性の妊娠・出産が可能となっていることを,実例をあげて示した。

「妊娠・分娩・産褥期を通じて,循環動態はダイナミックに変化します。妊婦の循環血液量は40%程度増加し,末梢血管が拡張するため,最も狭い肺循環に負担がかかります。したがって,肺高血圧症患者は妊娠維持が困難なことがありますが,妊娠前に肺高血圧が軽度ならば比較的安全に分娩が可能であり,妊娠初期にNYHA分類I程度であれば妊娠後期でも重症度が進むことはほとんどありません。拡張型心筋症では%左室内径短縮率(%FS),マルファン症候群では大動脈基部の絶対値や絶対値/体表面積が重要な予後予測因子となります。ACHD女性が出産を希望した場合には,こうしたデータをふまえ,患者やその家族のカウンセリングを行い,分娩に際して危険がある場合には,経膣分娩は行わず,人工心肺を用意したうえで帝王切開を行うなど,十分な対策をとります。」

妊娠・出産の心機能への影響については,さらなる研究が必要である。女性のライフプランを尊重し希望をかなえるためには,病状により限られた出産時期に合わせ,避妊や不妊治療の適切な実施が重要で,そのためには思春期教育も課題であるという。

「妊娠・分娩が心臓病の自然史に与える影響の研究もさることながら,母胎の健康を維持し,子の成長を見守っていただくために,産後30年は生きてくださいと,患者さんにはいつも言っています。」

講演4「ACHDのチーム診療体制」

八尾厚史氏(東京大学保健・健康推進本部 講師)は,移行期医療について述べた。

「移行期医療の目的は,小児期医療から個々の患者にふさわしい成人期医療への移り変わりを達成することです。小児循環器専門医は平成24年時点で約320人であり,ACHDの全患者を小児循環器専門医がカバーすることはとうてい不可能です。循環器内科と小児科を中心とした診療体制を早急に確立していく必要があります。その先駆けとして,2008年に東京大学医学部附属病院にACHD外来を設立し,小児心臓外科の協力を得ながら診療を開始しました。この外来の経験から,ある一定の経験を積んだ循環器内科医なら,小児(循環器)科医との連携のもと,ACHD患者を管理することは可能であることがわかりました。」

このときに問題になるのは,循環器内科医の同領域への参入の促進である。

「循環器内科の医師に参入してもらうため,2011年成人先天性心疾患対策委員会(循環器内科ネットワーク)を結成しました。現在,全国で26主要施設が参加しています。参加施設に対して,専門外来の設置(循環器内科医参入促進,小児科医との併診),ACHD総合診療施設の整備,ACHD専門の循環器内科医の育成,治療エビデンスの集積などを提案し,今後の活動に関する意見交換や,ACHD診療体制の構築のための連携を推進しています。」

今後の課題として,成人期医療へ移行のためのプログラム作成,精神・心理的問題を有する患者・その家族に対する多職種支援,医療従事者への研修体制,社会福祉制度の充実などがあげられた。2011年に日本成人先天性心疾患研究会は,学会に昇格し,2012年に日本循環器学会内に学術部会が設置され,ACHDの専門医の養成を日本循環器学会主導で行える体制になりつつある。

ACHDの患者数は心筋梗塞の発生数とほぼ同様の数値だという。ACHD患者数の増加に伴い,心不全や不整脈の発症・突然死の発生が問題視されている。ACHD患者の約半数がフォローアップされていないという現状があり,講演者らは先天性心疾患患者に対し,症状がなくても専門医を受診してほしいと訴える。単純な心房中隔欠損や心室中隔欠損の心内修復術を受け,現在は無症状な成人であっても,MRIで顕著な右心室の拡大が認められるという。また,先天性心疾患患者でも妊娠・出産が可能であるので,諦念前に専門医を受診してほしいとする。心機能の低下が顕著であっても,肺高血圧治療薬の使用で,より長期の生存が可能になった。

ACHD治療においては,患者には受診が,循環器内科医には参入が,そして社会には専門診療体制構築の必要性の理解が求められている。

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