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[トピックス] プレスセミナー
(2013年12月12日・東京)
インフルエンザ診療で求められる早期治療開始

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鳥インフルエンザや新型インフルエンザの出現は,毎年のように世界を騒がす。一方国内では,小中学校の学級閉鎖などの卑近な話題もいとまがない。本格的なシーズン到来前の2013年12月12日,塩野義製薬株式会社主催のプレスセミナーが開かれた。長崎大学病院病院長の河野茂氏が招聘され,「インフルエンザ診療の最前線」というタイトルで講演を行った。その要旨をまとめた。

抗ウイルス薬治療は重要

インフルエンザは,重症化のリスクが高い疾患である。症状を増悪させるリスク因子としては,高齢,慢性疾患罹患(肺疾患や心疾患,糖尿病など),幼少,妊娠などがあげられる。具体例を示すと,高齢者の致死率(2009年7月28日~2010年3月16日)は,推計受診患者(暫定値)1万人あたり60歳未満で0.01~0.66であるのに対し,60~69歳で1.47,70歳以上では2.82にものぼる(http://idsc.nih.go.jp/idwr/douko/2010d/10douko.html)。また,死亡や後遺症残存に至るリスクが高いインフルエンザ脳症は,全発症のうち5歳以下の占める割合が60%である(泉孝英ほか.医療者のためのインフルエンザの知識  医学書院,2007)。

抗ウイルス薬は,罹病期間を短縮し,ウイルス排出を減少させ重症化を防ぐ。そのため,日本感染症学会は,早期からの積極的な治療を推奨している。たとえば,2009年の新A型(H1N1)pdm09流行時には,日本における人口10万人あたりの死亡率は0.16で,カナダ1.32,オーストラリア0.93,イギリス0.76,フランス0.51,ドイツ0.31など,世界と比較して最も低かった(第6回厚生労働省新型インフルエンザ対策総括会議 参考資料1)。当時,WHO(世界保健機関)やCDC(米国疾病予防管理センター)は,健常成人では抗ウイルス薬の投与は必ずしも必要でないと,早期治療を推奨していなかった。

抗ウイルス薬投与は発症後48時間以内に

主なインフルエンザ治療薬であるノイラミニダーゼ阻害薬は,細胞表面の糖タンパク質とウイルス粒子表面のヘマグルチニンの結合を切断するノイラミニダーゼを阻害する。これにより感染細胞からのウイルス排出とウイルスの増殖が抑えられるが,ウイルスを殺すことはできない。そのため,抗ウイルス薬の投与は体内のウイルス数が増大する前に行う必要がある。

A型(H3N2)ウイルスに感染した入院患者147人において発症1週間後のウイルス残存に関する因子を調査した結果,発症後2日以内に抗ウイルス薬投与を開始した場合,4日以内に投与されなかった場合に比べ,オッズ比が低下してウイルス排出抑制効果が認められた(オッズ比:4日以内に投与されなかった群に対し,2日以内に投与された群は0.10[P<0.001],3~4日に投与開始された群は0.30[P=0.031])(Lee N, et al. J Infect Dis 2009; 200: 492-500 PubMed)。

先に述べた新A型(H1N1)pdm09の流行以降,米国で抗ウイルス薬の投与開始の遅れが指摘され,2010年1月にCDCは,「リスクなしの軽症例であっても発症48時間以内に抗ウイルス薬投与を検討」と,推奨を変更している。

ノイラミニダーゼ阻害薬の適切な選択を

日本で使用できるノイラミニダーゼ阻害薬は,オセルタミビル(経口剤),ザナミビル(吸入剤),ラニナミビル(吸入剤),ペラミビル(静注剤)である。これら4つの剤形がそろったことにより,高齢者や認知症患者,乳幼児や意識障害のある患者など,これまで内服や吸入が困難,あるいは服薬コンプライアンスが不良と想定された場合でも早期治療の実現が可能である。患者の年齢,合併症,重症度,生活状況などに配慮して,ノイラミニダーゼ阻害薬を適切に選択することが重要である。

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