2014年2月19日,塩野義製薬株式会社主催のプレスセミナーにおいて,昨年,糖尿病患者を対象に行ったT-CARE Survey「糖尿病患者の意識と行動」の調査結果の発表と,それを受けて開かれた寺内康夫氏(横浜市立大学大学院医学研究科分子内分泌・糖尿病内科学教授)の講演が行われたので,その概要を紹介する。
●T-CARE Survey | |
【調査目的】 | 糖尿病および周辺領域の疾患について発症状況を把握し,糖尿病患者の治療状況や生活満足度などについて明らかにする |
【調査対象】 | 20~60代の男女 |
【調査手法】 | インターネット調査 |
【有効回答数】 | 一般パネル20,254名,糖尿病疾患パネル3,437名 |
【調査時期】 | 2013年10月 |
【調査地域】 | 全国 |
今回行われた「T-CARE Survey」は,糖尿病を疾患の面からとらえるだけでなく,発症後の生活面など,さまざまな要素を考慮したトータルケアを重視し,糖尿病患者の意識と行動の実態を把握することを目的に行われたアンケート調査である。
この調査から,糖尿病患者では生活習慣病のなかでも自覚症状が出ない高血圧や脂質異常症にくらべてストレスを感じると答えた人の割合が高く,さらに症状の悪化や合併症などへの不安を抱えている人も半数以上にのぼることがわかった。一方,「治療に必要なことはきっちりやっている」と回答した患者が51.4%と,自身でしっかり治療している意識があるのは2人に1人にとどまるという結果も示された。
糖尿病治療は継続することが重要で,患者を中心としたさまざまな側面からの総合的なケアが急務である。そのトータルケアの実現に向けて,四つのキーワードが示された。
1)リスクケア(Risk Care)
リスクケアは,従来から一般的にいわれている合併症予防を意味し,糖尿病の合併症に関わる危険因子の管理と言い換えることができる。
インスリン療法により,糖尿病治療は飛躍的な進歩を遂げたが,糖尿病が引き起こす合併症や併発症は数多くある。それらをいかにコントロールし,健康寿命を確保できるかが現在の課題だ。糖尿病患者においては,脂質異常症や高血圧などの代謝異常症が多く認められ,さらに神経障害,網膜症,腎症といった糖尿病に特異的な3大合併症もある。またそれ以外にも,脳梗塞,狭心症,心筋梗塞,がん,CKD,うつといった疾患を発症するケースも少なくない。
そうした現状を反映してか,今回のアンケートでも糖尿病患者の心配事として,「透析になるのが怖い」(69.7%),「網膜症になって失明するのが怖い」(68.8%),「心筋梗塞になるのが怖い」(59.8%),「脳卒中になるのが怖い」(55.9%),「これからいろいろな病気になりそうで怖い」(51.8%)と合併症への不安が上位を占めた。
すなわち,血糖値だけでなくさまざまなリスクファクターをトータルに管理することが必要であり,患者に通院を継続させ,医療機関との接点を持ち続けてもらうことが今後の目標としてあがった。
2)ライフロングケア(Lifelong Care)
糖尿病とうまく付き合っていくためには,合併症の発症や増悪を防ぎ,QOLを保つことが,これからの時代はますます求められている。
しかし,糖尿病患者の治療状況は,平成24年国民健康・栄養調査によると,「現在治療を受けている」(65.2%),「以前受けたことがあるが,現在は受けていない」(5.8%),「ほとんど治療を受けたことがない」(29.0%)と,治療を受けたことがない人が,3割近くいることがわかった。
今回,どういったファクターが治療のモチベーションにつながるかを統計学的な手法を用いて調べたところ,「自分の病状の正しい理解」と「治療効果の認識・理解」という二つがとくに重要であることが示された。そのことをふまえ,それぞれの患者のフェーズにあった治療目標を設定し,それを患者と医療者で共有することが,治療へのモチベーションを高め,健康の維持につながると考えられる。
3)チームサポート(Team Support)
医療機関では医師だけでなく,看護師や薬剤師,管理栄養士などのコメディカルスタッフも糖尿病治療にかかわる場合が多い。しかし今回の調査では,コメディカルスタッフに疾患の相談をする糖尿病患者の割合は,3割以下という結果が出た。一方,コメディカルスタッフに相談をしている患者は,治療のモチベーションが高い可能性も示された。
今後,「多職種によるチームサポートの実践」「糖尿病領域以外のほかの診療科との連携」「糖尿病診療医とかかりつけ医の連携」「各種合併症の知識」といったものを啓発していく必要があるが,そのためには,チームでサポートすることによって患者の糖尿病に向き合う気持ちが改善されるという認識を,医療者は持つことが重要である。
4)コミュニティーサポート(Community Support)
患者は,医療機関では医療者と接するが,それ以外の時間は別の場所で生活している。とくに一人暮らしの高齢者の場合,医療機関で説明・指導したことが実際にできているのかを確認するためにも,患者家族を含めたコミュニティーのサポートは欠かせない。
しかし今回の調査では,家族のケアを得られない人が約5割もいることがわかった。また,「糖尿病になったら,普通の生活が送れなくなる」という設問に対して,「そう思う」「ややそう思う」と答えた糖尿病患者は27.3%であり,非糖尿病患者の42.0%とくらべて,大きな認識の差が認められた。こうしたギャップを埋めていくことも,今後,糖尿病のケアを進めていくうえで必要だと思われる。
今回の調査で,糖尿病患者が治療に前向きに取り組むためには「自分の病状の正しい理解」と「治療効果の認識・理解」が,大きなファクターであることがわかった。また「医師との関係」や「家族やメディカルスタッフの関与」が,治療モチベーションの向上につながることが明らかになる一方で,家族がいない患者のトータルケアをいかに行っていくかが課題としてあがった。
いまや国民病ともいわれるほど増加した糖尿病の患者において,個々の患者に応じたテーラーメイドのトータルケアが重要性を増していることが,今回の調査を通して浮かび上がってきた。