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[トピックス] 
ジカウイルス感染症の国内流行を防ぐために

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 2016年2月9日,国立国際医療研究センター・国立感染症研究所共催のメディアセミナー「ジカウイルス感染症:WHO緊急事態宣言を受けて」が開催された。プログラムは2つに分かれ,セミナー1では「疫学情報とリスク評価」,「検査法とその体制」,セミナー2では“事例「海外で感染した症例」”,“対策「海外に出かける人への助言・流行地からの帰国者への対応」”が講演された。それぞれ10~20分の短時間ではあったものの,ジカウイルス感染症(ジカ熱)の現状,日本における対策などの要点が十分に示された。

ジカウイルス感染症とは

 フラビウイルス科フラビウイルス属のジカウイルス(Zika virus)による感染症である。やぶ蚊(Aedes)属によるカ媒介性疾患で,輸血,性行為による感染が疑われる事例も報告されている。胎内感染の発生が複数報告されており,妊娠中の女性が発症した場合,小頭症を含む胎児・新生児の先天奇形・先天性障害との関連が疑われている。また,ギラン・バレー症候群を含む神経合併症との関連性も示唆されている。

 わが国では3人の患者が報告されており,いずれも輸入感染症のケースである。全員が国立国際医療研究センターを受診し,国立感染症研究所での遺伝子検査および抗体検査により診断され,二次感染の報告はない。

 現在,ブラジルをはじめ中南米での流行が問題になっているが,日本で経験した3人は中南米への旅行者ではない。患者は,1人目がフランス領ポリネシア(タヒチ)から帰国し2013年12月に発症した20代男性, 2人目が同様にタヒチから帰国し2014年1月に発症した30代女性,3人目がタイ・サムイ島から帰国し2014年に発症した40代男性である。全員,自宅療養で,後遺症もなく治癒している。

 初診時の体温は,37.2°,36.9°,37.2°と,微熱程度である。結膜炎や皮疹は特徴的であるが,総じて臨床症状は軽く,3人とも皮疹に驚いたことが受診理由であった。

ジカウイルス感染症を流行させないために

 ジカウイルス感染症の国内流行は,海外でジカウイルスに感染した帰国者を日本国内のヒトスジシマカが吸血して,ジカウイルスを獲得したヒトスジシマカが他の人々にジカウイルスを伝播することが発端となる。したがって,次の3つの対策が不可欠である。

 ①渡航者の防カ対策の徹底
 ②輸入ジカウイルス感染症患者の早期診断(カに刺されないように指導)
 ③ヒトスジシマカの駆除

 一般の人々の留意事項は,特に妊婦や妊娠の可能性のある女性は流行国への渡航を控える,海外渡航者は防カ対策を徹底する,帰国後に発熱や皮疹がみられたら即座に病院を受診する(海外帰国後である旨を伝える)などである。ジカウイルスは不顕性感染の可能性もあるので,防カ対策は帰国後も少なくとも10日間継続し,献血は帰国後4週間は自粛されたい。

 一方,医療従事者が努めることは,流行地域への渡航者に対する情報(流行情報,防カ対策,発熱時の早期受診)提供,ジカ熱の早期診断(診断後,速やかに患者をカから隔離する),ジカ熱の鑑別診断(デング熱・チクングニア熱は流行地域が一致)である。

感染症対策は国民全体で

 2016年8,9月,リオデジャネイロでオリンピック,パラリンピックが開催される。多くの日本人が観戦のため,流行国へ渡航することが見込まれている。ジカウイルスは,感染者の約8割が無症候であることから,渡航者が気づかない間に日本に持ち込まれる可能性は大きい。輸入感染症であったデング熱の国内感染が2014年8月に確認されたという前例もあり,ジカウイルス感染症の国内流行は十分に懸念されることである。また,胎内感染が問題になる疾病はジカウイルス感染症に限らない。先天性風疹症候群の予防も含め,感染症対策は国民全体で行う必要がある。

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