2015年11月28日,一般財団法人 健やか親子支援協会主催の第1回小児希少難病支援フォーラム「日本とアジアの子どもたちのために」が開催された。プログラムは4部に分かれ,第1部基調講演「小児希少難病研究の重要性と課題(座長:慶應義塾大学医学部小児科教授の高橋孝雄氏)」,第2部シンポジウム(1)「小児希少難病のアジア・ベトナムの現状と課題」(座長:熊本大学医学部小児科教授の遠藤文夫氏),第3部シンポジウム(2)「アジアに向けた医療技術支援の現状と展望」(座長:島根大学医学部小児科教授の山口清次氏),第4部ワークショップ「小児希少難病の医療技術の紹介」(座長:仙台市立病院小児科部長・東北大学医学部臨床教授の大浦敏博氏)という構成で,小児希少難病診療の向上,アジア近隣諸国との国際連携・国際貢献のため,産官学から招かれた国内外の講演者がさまざまな角度から発表を行った。
山口清次氏(島根大学医学部小児科教授) |
健やか親子支援協会(http://angelsmile-prg.com/index.html)は,“すべての子どもが健やかに育つ社会の実現”をめざし,アクションを起こすために2015年3月に設立されたものである。山口清次氏が理事長を務め,小児保健医療および福祉が抱える諸問題に対し,産官学のネットワークと関係者との連携を通して取り組んでいく。
小児希少難病は,患児が成長過程にあるために,治療の影響を受けやすく,心身障害も発生しやすい面がある。また,患者数が少ないので診断・治療法の研究対象とはなりにくく,社会的認知度も低いことから,患児とその家族は孤立感と不安のなかで難病と闘わなければならない。同協会は,将来を担う子どもたち全員を健やかに育てる環境を整えることを,社会全体が意識して取り組むべき責務であるとする。
同フォーラムの開催趣旨は,日本で確立された小児希少難病の診療技術の現状と今後の展望,アジア近隣諸国との国際協力,そして医療技術の産業化へ可能性について,多くの参加者とともに検討することにある。
松原洋一氏(国立成育医療研究センター研究所長・東北大学名誉教授) |
基調講演では,国立成育医療研究センター研究所長の松原洋一氏が,ゲノムワイド関連解析がもたらした創薬方法の変遷や,希少遺伝性疾患研究が果たす役割やその展望について述べた。これまでの希少遺伝性疾患研究は,医療関係者や一般の人々から「珍しい病気を集める,単なる趣味ではないのか」,「数少ない患者さんだけを救済するための慈善事業ではないのか」などと疑問視され,また製薬企業からは市場規模の小ささから関心をもたれることはほとんどなかった。だが現在では世界的に潮流が変化し,特にメガファーマは希少遺伝性疾患に大きな関心を示すとともに巨額の投資を行っている。多くの患者に恩恵をもたらす,実際に希少遺伝性疾患研究から生まれた3薬剤が紹介された。次に,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の主導で開始されたIRUD(未診断疾患イニシアチブ: Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases)というプロジェクトが紹介された。IRUDは,希少・未診断疾患のために,全国にクリニカルセンターを設置して医師会とも連携し,コンソーシアムを形成して次世代シークエンサーを用いた診断連携を行おうとするものである。プロジェクトから得られた遺伝子解析結果は,実際の患者に直接還元し診療に活用することを目的としている。
シンポジウム(1)では,山口清次氏から,「先天代謝異常症の診断支援の取組みとベトナム・アジアの共同研究」と題して,日本がアジアにおいて果たすべき役割が強調された。ベトナムからの2人の招聘講演者が,ハノイおよびベトナムの小児希少難病診療の現状や展望を報告した。シンポジウム(2)では,厚生労働省の谷村忠幸氏,独立行政法人国際協力機構(JICA)の米山芳春氏,一般社団法人メディカルエクセレンスジャパン(MEJ)の藤村敦士氏,AMEDの山田康秀氏の4人が,それぞれの国際医療協力について述べた。ワークショップでは,株式会社島津製作所・株式会社エスアールエル・積水メディカル株式会社の3企業から,マススクリーニング技術・臨床検査技術の開発や海外展開について紹介された。
日本では,出生後全員が「新生児マススクリーニング」という検査を受ける。2014年からはタンデムマス法が導入され,これまでの6種類から19種類の疾患について診断が可能となった。マススクリーニングの対象疾患拡大によって,障がいの発生を予防できる小児希少難病も増加しつつある。少子化対策が喫緊の課題である昨今,新生児全員が健康に育つ環境を整えることもその一環となる。
同フォーラムは,下記の4つの提言で締めくくられた。
1 タンデムマス・スクリーニング・パッケージのアジア展開
2 希少難病のデータを活用した創薬ができる環境を構築
3 小児希少難病に関するコンサルティングサービスの拡大と研修
4 アジア小児希少難病支援サミットを官民連携で開催
◆基調講演を,Therapeutic Research 3月号(3月29日発行予定)に掲載いたします。併せて,ご覧ください。