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[トピックス] 第19回日本心臓財団メディアワークショップ
足元の冷えに要注意!気温感受性高血圧とは?

苅尾七臣氏

暖かい店内でお酒を飲み,体がホカホカ。そろそろ帰ろうかと寒い外へ出た途端,激しい痛みが胸を襲った―。冬はこのような事態が起こりやすい季節。2016年2月26日,日本心臓財団の主催で開かれたメディアワークショップにおいて,苅尾七臣氏(自治医科大学内科学講座循環器内科学主任教授)が「足元の冷えに要注意!気温感受性高血圧とは?」と題し,温度と血圧,循環器疾患の関係について講演を行った。

■血圧の変動が心血管イベントのトリガーに
心血管イベントによる死亡者数は,夏に比べ冬では約2倍となる。寒さは血管を収縮させるうえ,屋内外の寒暖差は血圧の変動をもたらし,心血管イベントのトリガーになる。とくに起床後の時間帯は要注意だ。心血管イベントは午前中に発生することが多く,その一つの原因と考えられるのが,起床後に血圧が急上昇するモーニングサージだ。モーニングサージのメカニズムは完全には解明されていないが,加齢による血管の弾力性低下などに,起床前後の生理的な交感神経活性化が加わることで起きると考えられている。
■住宅の断熱性能が血圧に及ぼす影響
さらに,冬は寒さによってモーニングサージが増強される。苅尾氏は昨年,オムロンヘルスケア株式会社,慶應義塾大学理工学部,OMソーラー株式会社と共同で,室温が家庭血圧に与える影響を調査した。首都圏在住の35~74歳の男女137人(86世帯)を対象に,2014年11月から2015年2月のうちの約2週間,起床時と就寝時の血圧を測定してもらうとともに,住宅の断熱性能などに関するアンケートを行った。その結果,50歳以上の人において,断熱性能の低い住宅(平成4年基準未満)に住んでいる43人では,断熱性能の高い住宅に住んでいる19人に比べ,起床後の平均収縮期血圧が7.8mmHgも高いことが明らかとなった1)
■足元の冷えは血圧への影響が大きい
苅尾氏は,気温の変化に応じて血圧が大きく変動(10℃の温度変化によって血圧が10mmHg以上上昇)する病態を気温感受性高血圧と名づけ,心血管イベント発生リスクの新たな概念としてとらえている。苅尾氏らは上記調査において,住宅の断熱性能が室温および血圧に与える影響をさらに詳しく調べた。その結果,断熱性能の高い住宅では,床からの高さ1.1mと足元0.1mの室温にほとんど差がなかったのに対し,断熱性能の低い住宅では1.1mに比べ足元の室温が平均5℃低く,なかには10℃の差がある住宅も存在した。50歳以上の人の血圧をみると,高さ1.1mの室温が10℃下がると起床後の収縮期血圧は5mmHg上昇するのに対し,足元の室温が10℃下がると9mmHgも上昇することが明らかとなった1)。つまり,朝,室温が下がりやすい古い住宅に住む高齢者は大きなリスクを抱えているが,足元の温度に気をつけることで気温感受性高血圧の発生が抑えられ,心血管イベントを抑制できる可能性があることを示唆する。
■血圧サージの共振仮説
苅尾氏は,血圧の日内変動,季節ごとの変動,血管年齢の変化による変動といった時相の異なる変動が相乗的な血圧上昇をもたらし,心血管イベントのトリガーになるという血圧サージの共振仮説を提唱している。心血管イベントを予防するには,生活習慣とともに足元の温度といった生活環境も適切に整えるなど,さまざまな血圧変動の要因となる因子をできるだけ少なくしていくことが重要といえる。
(詳細はTherapeutic Research 本誌に掲載予定)
1) オムロンヘルスケア株式会社ニュースリリース(2015年4月21日)
http://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2015/0421.html

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