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[トピックス] OPINION
THERAPEUTIC RESEARCH vol.37 no.7 2016掲載
ガイドライン作成委員長に聞く
肥満症診療ガイドライン2016が目指すもの
宮崎滋氏

2016年春に,「肥満症診療ガイドライン2016」が発表された。5年ぶりの改訂で日本肥満学会が目指したものは何か,作成委員会委員長を務めた宮崎滋氏(結核予防会総合健診推進センター・センター長)にお話を伺った。

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—日本肥満学会は2000年に「新しい肥満の判定と肥満症の診断基準」を発表し,その後,2006年に「治療ガイドライン」,2011年に「診断基準」,そして今回「診療ガイドライン」と改訂を重ねています。

宮崎 いずれの改訂も,最初に発表された2000年の診断基準をさらに強化し,わかりやすくするために行われました。これまで「治療ガイドライン」「診断基準」と改訂を発表してきましたが,やはり総合的にということで,今回は「診療ガイドライン」としてまとめました。

 2000年から15年間,基本方針は変わっていません。多くの医療従事者にわかりやすくお伝えしたい,たとえば整形外科医や婦人科医のような非専門医であっても,ある程度方向性がわかるようなガイドラインにしたい,そのような思いで今回も改訂作業を行いました。

—ガイドラインから医療従事者へ向けた,最大のメッセージは何でしょうか。

宮崎 日本肥満学会では「肥満」と「肥満症」が異なることをこれまで繰り返し主張してきました()。しかし,なかなか浸透していません。肥満は「身長にくらべて体重が多い」ということであり,危険性はあるものの疾患ではありません。一方の肥満症は,「肥満が原因で病気になっている」ということですから,肥満者から肥満症患者を選び出して減量治療・管理をすれば病気はよくなると考えられます。たとえば,糖尿病であってもそれ以前の問題として「肥満症」なのであれば,体重を減らせば良くなります。つまり「減量すれば医学上のメリットのある太った人を選び出して適切な治療介入をしましょう」というのが肥満学会からの最大のメッセージです。

また,肥満症患者をどうやって選び出すか。正しく治療するにはどのようにしたらよいか,たとえば絶食療法を勧めてよいか? という問いに対して,それは止めたほうがいいということがわかるようなガイドラインにしたいと考えました。

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図 肥満症診断のフローチャート 図1

常に念頭において診療する,**耐糖能障害,脂質異常症,高血圧,高尿酸血症・痛風,冠動脈疾患,脳梗塞,非アルコール性脂肪性肝疾患,月経異常,睡眠時無呼吸症候群,運動器疾患,肥満関連腎臓病,***肥満,高度肥満でも減量指導は必要

出典「日本肥満学会.肥満症診療ガイドライン2016. ライフサイエンス出版,2016.」

—BMI≧25の「肥満」から医学的に減量を要する「肥満症」を選び出し,適切に治療・管理するためのガイドラインということですね。

宮崎 そうです。糖尿病,高血圧,脂質異常症で太った患者さんの場合,痩せたら良くなるかたはたくさんいます。しかし,外来患者さんが診察を待つ列を作るなかで,一人一人の患者さんに時間をかけて充実した生活習慣指導を行うことは容易ではありません。そこで手軽な薬物治療が選択されることが多いと思いますが,それを防ぎたいと思っています。肥満症で合併症がひとつというかたは稀で,糖尿病も高血圧も脂質異常症もある,つまりメタボリックシンドロームなのですが,ほかにも尿酸値が高かったり,睡眠時無呼吸があったりと,複数の疾患をもっていることが多々あります。それぞれの疾患に薬物治療を行うのではなく,体重を減らせば一挙に改善することを理解していただきたいと考えています。

 「巨大な肥満が肥満症で,ちょっと太っている程度なら気にしなくてよいのではないか」という医師がいますが,いま診ている高血圧の患者さんが太っているなら,やせたらよくなるのではないですか? そういう視点をもってくださいね,といいたいのです。薬を使ってもよいのですが,減量すればもっと効果が現れます。あるいは減薬することができます。

—ガイドラインには「肥満,高度肥満でも減量指導は必要」との記載もあります。BMI≧25の場合は,肥満症ではなくても減量が必要なのでしょうか?

宮崎 肥満症ではなくても,「肥満」は健康に対する危険因子ですから,放置するのは得策ではありません。ガイドライン作成の際も,議論はありましたが「肥満も高度肥満も,合併症がないからといってなにもせずそのままでよいとはいえない」というのが今回の結論です。

—いまは問題がなくても,リスクを放置すべきでないということですね。 つぎに,改訂のポイントや今回のガイドラインの特徴を教えていただけますか?

宮崎 これまでのガイドラインは,肥満症の「糖尿病」「高血圧」をどう治療するかということに内容が割かれていました。しかし,ほとんどの肥満症患者は複数の合併症をもっていますので,今回は「肥満症」「高度肥満症」と大きく二つにわけ,まず肥満に着目してもらうようにしました。著しく太った人と小太りの人では病態が異なりますので,治療法も,診療の方向性が違うことも,はっきりさせました。

 2006年の治療ガイドラインでは,合併症の病態を「質的異常」と「量的異常」にわけていました。しかし,合併症のほとんどの原因は内臓脂肪からきている質的異常とわかってきたため,質的異常/量的異常とわけるのではなく,肥満症/高度肥満症とわけることにしたのです。合併症のうち運動器疾患,閉塞性睡眠時無呼吸症候群は皮下脂肪や過重負荷が原因と考えられますが,運動器疾患でも手指の変形性関節症は過重負荷では説明がつきませんし,内臓脂肪が多い人で頻度が高いことがわかってきています。いずれにしても,もっとも重要なことは内臓脂肪を減らすことです。

—ガイドラインに,アジア人ではBMI が低くても内臓脂肪蓄積をきたしやすいため,内臓脂肪量を意識した治療と指導が重要,との記載がありました。日本人やアジア人では,なぜ内臓脂肪が蓄積しやすいのでしょうか?

宮崎 皮下脂肪を貯める能力が低いため,すぐにあふれて内臓脂肪になるという説もありますが,まだよくわかっていません。日本人をはじめ,東アジア人,東南アジア人は小柄ですし,BMIが23程度でも生活習慣病を伴った人が多くいます。2015年に開催された第8回アジア・オセアニア肥満学会では,内臓脂肪の重要性を一緒に考えましょう,という主旨で,肥満症の国際的な概念が「名古屋宣言2015」として参加11ヵ国によって提唱されました。

表 名古屋宣言2015(Nagoya Declaration 2015)

 2015年に名古屋で開催された第8回アジア・オセアニア肥満学会において,肥満症(obesity disease)について,国際的な概念が提唱された。

 【名古屋宣言2015】 肥満症(obesity disease)とは,肥満に起因ないしは関連する健康障害を合併し,医学的に減量を必要とする病態をいい,疾患として取り扱う。すなわち,肥満のなかから肥満症を取り出すことにより,健康障害を伴わない肥満と,健康障害を伴う肥満症とを区別する。
 健康障害を伴う肥満症は,減量によって合併している健康障害の改善が期待できることから,治療医学の適応となる。健康障害を伴わない肥満も,将来起こり得るさまざまな疾病の危険因子となるため,予防医学の対象となる。

出典「日本肥満学会.肥満症診療ガイドライン2016. ライフサイエンス出版,2016.」 

—国際的には,肥満に対して異なる考え方があるようですが,たとえば,ウエスト周囲長測定位置について,欧米は一番細い「中点」を,日本はおへそまわりの「臍位」を採用しているのは文化の違いでしょうか?

宮崎 いえ,ウエスト周囲長測定位置の差異は文化の違いでなく,肥満に対する考え方と,日本でCTが普及していることが関係しています。先ほどからお話ししているとおり,日本では肥満についての考え方がまず「内臓脂肪」を前提としています。太っていても健康障害のない人がいる一方で,BMI 23程度でも糖尿病,高血圧,脂質異常症の人がいる。皮下脂肪ではなく内臓脂肪が原因なのではないか,ということでCTで内臓脂肪の有無を確認しようとしたとき,臍位より少し上だと断面画像に腎臓が,少し下だと骨盤が入ってしまうため,臍位がちょうどよかったわけです。以降,ウエスト周囲長も臍位で測定するようになりました。

 日本ではあくまでCTによる内臓脂肪面積が100cm²の人の腹囲をウエスト周囲長と位置付けています。男女とも内臓脂肪面積が100cm²と同じでも,女性は皮下脂肪がつくので,ウエスト周囲長は男性より5cm長くなります。CTが普及していない欧米ではBMI が30の男女のウエスト周囲長を基準としていますので内臓脂肪量は考慮されていません。

 したがって,メタボリックシンドロームについても,欧米は「マルチプルリスクファクター(多重危険因子)」という扱いで,肥満,高血糖,脂質異常,高血圧と悪い因子が集まっているとさらに悪くなりますよ,という概念です。日本は内臓脂肪を基盤と考え,内臓脂肪があると病気が集まるので悪くなるという概念ですので,スタートの時点が違います。今後,肥満症やメタボリックシンドロームの概念や基準について国際的整合性をとる必要があると思います。

—国際的整合性のほかに,引き続き検討すべき課題,次回改訂時に詰めたい点などはありますか?

宮崎 高齢者の肥満の治療指針について,次回改訂時に盛り込みたいと思っています。「高齢になると,かえって太っているほうがよいのはないか」と質問されることがあると思いますが,その際にどのくらい痩せさせたほうがいいのか,あるいは肥満に本当にリスクがあるのか,ないのか,そのあたりを加えることができればと思います。

 
【関連書籍】 photo:本:肥満症診療ガイドライン2016 肥満症診療ガイドライン2016
編集 日本肥満学会

あらゆる疾患に肥満が関連。肥満症治療で一挙に改善!
BMI≧25の「肥満」から医学的に減量を要する「肥満症」を選び出し,適切に治療・管理するための手引き。

ライフサイエンス出版刊 ISBN 978-4-89775-343-0
A4変形版  152 頁 定価(2,200 円+税)
「肥満症でも,糖尿病,高血圧,脂質異常症などでも,医師の役割は治療の方向性を示すことであり,実際に患者さんに携わるのは看護師,保健師,栄養士です。コメディカルのかたに肥満の概要,大枠を理解していただくことも今回のガイドラインの目的のひとつですので,ぜひ活用していただきたいと思っています。

(肥満症診療ガイドライン2016作成委員長 宮崎 滋)

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