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[トピックス] 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
[1月28日・東京]
NCNP市民公開講座“てんかんと精神症状・発達障害”

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 2018年1月28日,国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)において,NCNP市民公開講座“てんかんと精神症状・発達障害”が開催された。定員150人のところ,申込者約190人,当日は約160人が参加し,熱心に講演に耳を傾けた。

 プログラムは,「てんかんと自閉スペクトラム症」,「てんかんと精神症状」,「てんかんと注意欠如多動症」,「てんかんの治験について~治験ってなんだろう?~」の4講演。同公開講座は,須貝研司氏(NCNP病院てんかんセンター)の開会のあいさつから始まり,最先端の治療・研究に携わる医療従事者による上記の4講演が続いた。

 須貝氏によると,2017年に国際抗てんかん連盟により,てんかん発作分類とてんかん分類(てんかん診断の3段階)に関して,診断の各段階で併存症への考慮が必要であると提言されたため,そのひとつである発達障害が今回のテーマとして選ばれた。最初の3講演の要旨を示す。

●てんかんと自閉スペクトラム症(中川栄二氏・同センター病院小児神経科)

 中川氏は総論として,てんかんや発達障害,それらの薬物治療について概説した。まず,同公開講座全体の前提として,脳の解剖図により大脳が人間としての思考と行動に,大脳の後部にある小脳が運動機能の調節に,脳の中心部分の脳幹が意識と生命の維持に深くかかわっていることが示された。神経回路の形成過程は動画で流された。神経細胞の数は出生時にすでに決まっており,成長しても増えることはないが,神経細胞はシナプスにより他の神経細胞と連携し,神経回路を形成していく。神経回路は9,10歳でできあがり,脳の重さは成人とほぼ同じになる。また,神経細胞には興奮性神経と抑制性神経の2つがあり,幼児では興奮性神経が優位であるが,7歳ごろから抑制性神経が発達して,バランスがとれていく。これら2つの神経のアンバランスによってさまざまな症状が出現する。

 中川氏は小児神経科医として,神経回路がほぼ完成する9,10歳が重要な時期だとする。神経発達のアンバランスが,てんかんをはじめ,種々の疾患・症状として現れてくるので,早期診断・早期治療の必要性を強調する。興奮性の神経回路ができあがってしまうと,治療はなかなか困難だからである。

 発達障害とは「発達過程が初期の段階で何らかの原因によって阻害され,認知,言語,社会性,運動などの機能の獲得が障害された状態」とされ,広義の発達障害には重症心身障害(重複障害),視聴覚障害,脳性麻痺,知的障害,自閉症,てんかんなどが含まれる。ただ,発達障害支援法では,そのなかで,精神発達遅滞(知的障害)を合併していない(IQ70以上)狭義の脳の発達障害を「発達障害」と定義している。

 米国精神医学会が作成し世界的に広く使用されているDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)は,「発達障害」を神経発達症(障害)群,すなわち脳・中枢神経の成長発達に関するカテゴリー群に含めている。中川氏は,「発達障害」として,その下位項目から,①自閉スペクトラム症(ASD),②注意欠如・多動症(ADHD),③特異的発達障害(限局性学習障害,コミュニケーション障害,運動技能障害/運動協調障害)の3つをあげている。これら3つは併存していることが多い。

 てんかんの小児では,非てんかん群より発達障害の併存率が高く,てんかん児の20%にASD,30%にADHDの併存が報告されている。逆に発達障害の小児でのてんかんの併存率は,ASDで5~38%,ADHDで12~17%である。てんかん発症後の2/3の小児に,その後,発達障害様症状が認められたという。

 とくにASDの診断的特徴として,中川氏は,①コミュニケーションや情緒的疎通性をはじめとする対人的相互反応の困難さ,②脅迫的で限局された精神行動や行動様式,をあげる。ASD小児のてんかん発作の発生時期は,1~5歳の幼児期と11~18歳の思春期に2峰性に認めるとの報告もある。

 発達障害の薬物治療は補助(緩和)手段として行われるが,あくまでも対症療法となる。薬物には,中枢神経刺激薬,抗精神病薬,抗うつ薬,抗てんかん薬,漢方薬,抗ヒスタミン薬,睡眠薬が使用され,情報を伝達する化学物質,つまり神経伝達物質のバランスを調整することが治療目的である。各薬剤の詳細は割愛するが,各薬剤の作用機序などが市民向けにわかりやすく解説され,てんかんの薬物療法において,併存する精神症状と発達障害の症状を考慮した治療が重要であることが強調された。

●てんかんと精神症状(岡崎光俊氏・国立精神・神経医療研究センター病院精神科)

 岡崎氏は,ラファエロ・サンティ作の絵画『キリストの変容』を提示し,中央上にキリストが,右下にてんかん発作を起こした少年が描かれていることを紹介した。当時は,原因不明の病気として悪魔つき・憑依とされ,20世紀に「脳の電気活動の異常」だとわかるまで,精神疾患として取り扱われてきた。キリストが治したとされるラファエロが描いた少年は,突き上げられた右手から左前頭葉に原因をもつてんかん患者であると想定されている。

 現在,ICD-10(国際疾病分類)によると,てんかんは,精神疾患のF項目ではなく,G40として神経疾患に分類されている。大脳の神経細胞が過剰に興奮することにより,発作症状が引き起こされる慢性的な神経疾患である。従来は精神疾患として対応されてきたので,発作は脳の異常な放電であり神経疾患であるという認識が急速に普及するにつれ,一方で,精神疾患であるとの偏見を助長するという懸念から,てんかん患者の精神医学的問題に関する議論はタブー視されるようになったという。

 神経疾患であることが確定した今,なぜ,てんかんと精神症状が論じられるのか。その理由は,てんかん患者において精神症状の併存率が高いからである。たとえばうつ病性障害は,一般人口の2~4%に対し,てんかん患者では11~44%にものぼる。また逆に,近年,精神疾患患者が高率にてんかん発作を起こし,両疾患に双方向性の関係があることが示唆されている。そこで,重要になるのは,精神疾患の合併はてんかん患者の生活の質(QOL)を著しく低下させることである。岡崎氏は,調査により,てんかん発作の回数の減少は患者のQOLとそれほど関連してはいなかったが,うつ病の併存は著しくQOLを低下させることが明らかになったと述べた。

 また岡崎氏は,過呼吸発作,パニック発作,転換症状,解離症状,急性ストレス反応,心的外傷後ストレス障害,虚偽性障害,詐病などの心因性非てんかん発作(PNES)についても言及し,「やっかいなのは『てんかん患者』か『そうでない』かのみでなく,ひとりの患者でも「てんかん」か「そうでない」かを見分けなければいけないことである」とする。さらに,てんかん患者に攻撃性や暴力傾向が強いという報告を取り上げ,一部の患者には攻撃性や興奮が突然出現することもあるが,「てんかん患者イコール攻撃的・暴力的」という関係を示すエビデンスはないと否定した。いわゆる「てんかん性格」の存在は,医学的にも心理学的にも証明されていないのである。

 てんかんが神経疾患として確立した現在でも,患者の一部にみられる精神医学的問題に対して,偏見や誤解をおそれるあまり議論や解決方法の探求の回避が懸念されるという。今後,患者のQOLを著しく低下させる精神医学的問題について正面から取り組み,研究を発展させ,患者への良質な援助を可能にすることが期待されている。

●てんかんと注意欠如多動症(加賀佳美氏・同センター精神保健研究所知的障害研究部)

 中川氏の総論的な内容を踏まえ,加賀氏は注意欠如多動症(ADHD)について解説した。ADHDの特徴は,①多動性,②衝動性,③不注意症状の3つである。

 DSM-5の診断基準も示されたが,発達障害はスペクトラムで,障害の線引きが非常に困難である。診断には,①発達水準に不相応,②生活や学業に悪影響あり,③少なくとも2か所以上で同様な症状,がみられることが重要で,そのために支援が必要な状態であるかどうかを判断する。

 ADHDの診断は,症状診断が一般的であるが,前頭葉機能(実行機能)の評価により,客観的に診断しようとする試みも行われている。実行機能には,抑制機能,作動記憶(ワーキングメモリ),文脈依存記憶,流暢性,計画立案(プランニング),認知シフティング(柔軟な切り替え)などが含まれる。とくにADHDでは,抑制機能障害が指摘されている。評価方法は,神経心理検査と非侵襲的脳機能検査の2種類に大別される。神経心理検査には,抑制機能検査(Stroop test:色と文字の干渉課題),流暢性検査(語流暢性課題:たとえば,「か」のつく言葉を言う),認知シフティング(ウィスコンシンカード分類課題:色,形,数の異なるカードを分類する),持続性注意課題(モグラが出たらスイッチを押す「もぐらーず」など)がある。一方,非侵襲的脳機能検査は,脳波検査(実行機能課題を施行しながら脳波を計測:課題に対する脳の反応を解析),近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)検査(課題施行中の脳血流を評価),機能的MRI(課題施行中の血流動態を視覚化して表す方法で解剖学的な脳機能部位が評価できる)である。

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 てんかんの小児では約30%(20~60%)にADHDが併存し,ADHDの小児では脳波異常が35~95%に認められるという報告もある。ただ,次のような場合には,てんかんの症状がADHDと間違えられることもある。それらは,欠伸発作が主症状である小児欠伸てんかんや複雑部分発作がある内側側頭葉てんかんなどで,意識の変容を主とする発作をもつてんかんである。また,眠さ,集中困難,記憶力の低下,いらいらや不機嫌情緒の影響などから,抗てんかん薬の副作用が原因となることもある。

 てんかん患者のQOLの向上に向け,てんかんと発達障害の両面からの治療的介入,薬物の相互作用への考慮が不可欠であると述べた。

 最後の講演は,臨床研究コーディネーターの柳律子氏(同センター病院臨床研究推進部)が行った。「てんかんの治験について~治験ってなんだろう?~」というテーマで,薬剤が市販されるまでの流れが示され,治験の必要性,治験参加のメリット・デメリットや手続きなどが説明された。一般診療との違いや治験薬の安全性に関する映像には,参加者の視線が集まった。最後に,同センター病院で実施中の治験に関する情報サイト(http://www.ncnp.go.jp/hospital/sd/chiken/detail02.html)が紹介された。

 同公開講座では,てんかん,てんかんの精神医学的問題,併存疾患としての発達障害などがわかりやすく解説され,参加者たちが理解を深める貴重な機会となった。

◆月1回開催されるNCNP市民公開講座の今後のテーマは次のとおりです

  • 3月17日(土)13:30~15:30
    • 「認知症の早期発見・早期治療~知っておきたい認知症の今~」
      (参加申込多数のため,受付終了)
  • 4月以降は,下記のサイトに順次掲載されます

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