第41回日本高血圧学会が9月16日に開いた会見で,「高血圧治療ガイドライン2019」(JSH2019)作成委員長の梅村敏氏(横浜労災病院 病院長)は,草案として,高血圧の基準値140/90mmHgは変えず,合併症がない75歳未満の降圧目標を130/80mmHg未満に引き下げる方向であることを示した。今後,JSH2019に関して関係学会等と調整し,2019年1月にパブリックコメントを行う予定で,草案が変更される可能性もあるが,2019年4月の刊行を目指している。
2017年の米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)高血圧ガイドラインでは,高血圧の基準値が収縮期血圧(SBP)130/拡張期血圧(DBP)80mmHgに引き下げられた1)。また,2018年8月に改訂された欧州高血圧学会(ESH)/欧州心臓病学会(ESC)の高血圧ガイドラインでは,65歳未満の成人の基準値は140/90mmHgで変わらないが,降圧目標が変更された2)。5年ぶりの改訂となるJSH2019で,日本の高血圧の基準値が変更されるのか,大きな関心が集まっている。
—高血圧の基準値140/90mmHgは変更せず,降圧目標は引き下げを提示
梅村氏はJSH2019の草案として,高血圧の基準値は140/90mmHgを維持するが,正常域血圧の分類と名称を変更し,合併症がない75歳未満の降圧目標を130/80mmHg未満に引き下げる方向であることを示した。JSH2019作成にあたり,多数の論文についてシステマティックレビューを実施しメタ解析を行い,エビデンスに基づいて降圧目標の引き下げを提示した。
—血圧分類と名称の変更
正常域血圧の分類と名称は,JSH2014の130~139/85~89mmHg:正常高値血圧,120~129/80~84mmHg:正常血圧,120/80mmHg未満:至適血圧から,JSH2019草案では130~139/80~89mmHg:高値血圧,SBP 120~129mmHgかつDBP 80mmHg未満:正常高値血圧,120/80mmHg未満:正常血圧へと変更。とくに130~139/80~89mmHgは高血圧には分類されないが,リスクは上昇するため,従来の「正常高値血圧」から「正常」を削除して「高値血圧」とする。
高血圧の分類には変更がなく,140~159/90~99mmHg:Ⅰ度高血圧,160~179/100~109mmHg:Ⅱ度高血圧,180/110mmHg以上:Ⅲ度高血圧。
合併症がある患者の降圧目標は,冠動脈疾患,蛋白尿陽性の慢性腎臓病(CKD),糖尿病で130/80mmHg未満であり,75歳以上の高齢者,蛋白尿陰性のCKD,脳卒中既往では140/90mmHg未満とする。
降圧目標に到達していない場合,まず生活習慣の改善など非薬物療法を行い,それでも降圧が不十分なときに薬物治療を行うことが推奨される。
高血圧治療では,降圧薬が治療満足度,貢献度とも高いにも関わらず,降圧目標到達率は不十分であるというHypertension Paradoxが問題になっている3)。わが国では,2016年に高血圧患者は約4300万人,そのうち降圧目標に到達しているのは1200万人と推定されている。日本高血圧学会のみらい医療計画では,高血圧の国民を10年間で700万人減らし,健康寿命を延伸させることが目標とされている。降圧目標到達率を向上させHypertension Paradoxを解消することが大きな課題である。
今後,JSH2019について関係学会等と調整し,2019年1月にパブリックコメントを行い,2019年4月の刊行が予定されている。
文 献
(Therapeutic Research 2018年10月号掲載)