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[TOPICS] 
日本のCOVID-19入院患者の血栓症発症率は全体で1.85%,人工呼吸・ECMO中(重症)症例では13.2%と高率
—COVID-19関連血栓症アンケート調査結果報告(厚生労働省研究班・日本血栓止血学会・日本動脈硬化学会 合同調査チーム)より

 12月8日に厚生労働省研究班・日本血栓止血学会・日本動脈硬化学会の合同調査チームは,COVID-19関連血栓症アンケート調査の結果を発表した。全国109病院のCOVID-19入院患者6,082例の血栓症発症率は1.85%。軽・中等症症例の0.59%に対して,人工呼吸・ECMO中(重症)の症例では13.2%と高率であり,血栓症は予防すべき重要な合併症と指摘されている。アンケート調査結果の概要を紹介する。

背景と方法

 新型コロナウィルス感染症COVID-19の病態の重症化に血栓症が深く関わっていることは欧米の研究で指摘されている1)。わが国のCOVID-19関連血栓症の病態および診療実態を明らかにすることを目的として,厚生労働省難治性疾患政策研究事業「血液凝固異常症等に関する研究」班,日本血栓止血学会,日本動脈硬化学会の3つの組織が合同で,2020 年8月31日までに入院したCOVID-19患者を対象とし,全国のCOVID-19診療病院にアンケート調査を行った。

結 果

1 解析対象
 2020年11月23日までに届いた回答を解析対象として,解釈を要する回答については研究チームで協議し,データの取り扱いを決定した。

2 COVID-19症例数・重症度
 399病院にアンケートを送付し,109病院(27.3%)から6,082症例の回答を得た。

 COVID-19の重症度は,酸素投与なし・酸素投与までの軽・中等症症例が5,673例(93.5%),非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)までの症例が13例(0.21%),人工呼吸器まで施行326例(5.4%),体外式膜型人工肺(ECMO)まで施行56例(0.92%)であった。本報告では,重症例を人工呼吸器あるいはECMOを使用した症例とした。

 病状悪化による転院は106例(1.74%),死亡208 例(3.4%)。CHDF等の人工透析は82 例(1.35%)に施行された。

<考察> 軽症者を対象とした病院から重症者を対象とした病院まで,全国の109病院(アンケート送付の27.3%)から,6,000例を越える症例に関する回答があった。そのため,このアンケートの結果はわが国のCOVID-19 関連血栓症の病態や診療実態を一定程度反映していると考えられる。

3 D-dimer値
 凝固と線溶の指標であるD-dimerは,血栓形成およびCOVID-19重症化の指標となる2)。D-dimerが測定された4,420例のうち,入院期間中の最高値が基準値の3~8倍まで上昇したのは9.5%,8倍以上に上昇したのは7.7%であった。

<考察> COVID-19では,微小循環系における微小血栓の形成が報告されている3)。D-dimer値が上昇している症例では,臨床的な血栓症が診断されなくとも,微小血栓等が多発している可能性がある。

4 血栓症発症症例の検討
 血栓症に関して回答があった5,687例のうち,血栓症の発症は105例(1.85%)に認められた。105例の発症部位は,症候性脳梗塞22例(21.0%),心筋梗塞7例(6.7%),深部静脈血栓症41例(39.0%),肺血栓塞栓症29例(27.6%),その他(下肢動脈血栓症,脾梗塞等)21例(20.0%)(重複回答可)。

 軽・中等症例での血栓症発症率は0.59%(31例),人工呼吸・ECMO中の重症例では13.2%(50例)であった。

<考察> 血栓症発症率は,軽・中等症例の0.59%に比べて,人工呼吸器・ECMOで治療中の重症例では13.2%と高かった。人工呼吸器に移行前の症例,人工呼吸器が外れた後の回復期の症例は,「人工呼吸器・ECMO使用中」にあてはまらず,13.2%には含まれていない。軽・中等症例以外をすべて重症者と仮定すれば,その発症率は最大19.4%となり,わが国の人工呼吸器・ECMOで治療された重症患者の血栓症発症率は13.2~19.4%と推測される。

感染対策上COVID-19重症例への造影CT等の検査施行はハードルが高く,わが国の重症例での血栓症発症率は13.2~19.4%より多い可能性が否定できず,欧米とそれほど変わらないかもしれない。いずれにしても,重症例における血栓症の頻度は相当高く,予防すべき重要な合併症と言える。

一方,軽・中等症例では,血栓症の高リスク症例等に選択的に予防的抗凝固療法を実施するほうが望ましいと考える。

 血栓症を発症した105例のうち,全身状態の悪化時の症例は64例(61.0%),回復期の症例も26例(24.8%)にみられた。

<考察> 血栓症は重症例に多く,重篤化に寄与している可能性があるが,回復期にも少なからず発症しており,臨床症状がピークを越えたとしても,血栓症発症への注意が必要である。

 70歳以上の高齢者は42例(40.0%),男性63例(60.0%)であった。また,入院時血清クレアチニン値が2 mg/dL以上を認めた症例が13例(12.4%),入院中に血清クレアチニン値が2 mg/dL以上の上昇を認めた症例が27例(25.7%),CHDF等の人工透析例は12例(11.4%)であった。

<考察> COVID-19は腎機能障害をしばしばもたらす4)。CHDF等の人工透析が6,082例のうち82例(1.35%)に施行されていた。血栓症発症105例でも腎機能悪化例がみられた。CHDF等の透析は人工呼吸と同程度の血栓リスクと考えられる。

 血栓症(心筋梗塞,脳梗塞の既往や深部静脈血栓症等)の既往のある症例は9例(8.6%),BMIが30以上の肥満者は12例(11.4%),担癌者は9例(8.6%)であった。なお,抗凝固療法中の症例が25例(23.8%)存在した。

<考察> 一般的な血栓症の危険因子として,血栓症の既往,肥満,担癌患者等が指摘されている。今回の調査でも血栓症既往例,BMI 30以上の肥満者,担癌者が多く含まれており,わが国のCOVID-19関連血栓症でもリスクとなっている可能性が高いと考えられた。

抗凝固療法中でも血栓症を発症することがあり,高リスク症例には十分に注意を要する。一方,今回の調査では,血栓症発症例の約76%は抗凝固療法を受けていなかった可能性がある。血栓症のリスクが高い症例には,D-dimer値や臨床症状等を参考に,積極的な抗凝固療法を考慮すべきであろう。

5 抗凝固療法の施行実態
 抗凝固療法は,6,082症例のうち880症例(14.5%)に実施されていた。880症例のうち,未分画ヘパリン591例(67.2%),低分子量ヘパリン111例(13.0%),ナファモスタット(フサン®)234例(26.6%),トロンボモジュリンアルファ42例(4.8%),上記の併用138例(15.7%),直接経口抗凝固薬(DOAC)が91症例(10.3%),その他42例(4.8%)であった(重複回答可)。

 抗凝固療法の予防投与に関する質問に49病院から回答を得た。その施行理由として,D-dimer高値が22病院(44.9%)で最も多く,NPPV・人工呼吸器装着症例への予防投与が20病院(40.8%),酸素投与症例に16病院(32.7%),血栓症既往症例に10病院(20.4%),全員が9病院(18.4%)であった(重複回答可)。

<考察> 抗凝固療法は14.5%の症例が受け,未分画ヘパリンが多く用いられていた。ナファモスタットが用いられていたのは,COVID-19感染症そのものへの効果を期待していたと考えられる。その施行理由の多くはD-dimer高値や症状の悪化であった。

 抗凝固療法の中止理由は,血栓症の改善が35例(880例の4.0%),D-dimer値の低下184例(20.9%),症状改善287例(32.6%),退院・死亡124例(14.1%)であった(重複回答可)。また,出血により21例(2.4%)が抗凝固療法を中止した。

 血栓症を発症した105例のうち39例(37.1%)に,入院時に投与されていなかったDOACが退院時に投与されていた。

<考察> 出血の原因としては,抗凝固療法による出血リスクの上昇のほかに,播種性血管内凝固症候群(DIC)による血小板減少・フィブリノーゲン濃度の低下や線溶亢進等が考えられる。抗凝固療法の実施に際しては出血性合併症の発症に留意すべきである。

 文 献

  • 1)Klok FA, et al. Confirmation of the high cumulative incidence of thrombotic complications in critically ill ICU patients with COVID-19: An updated analysis. Thromb Res 2020; 191: 148-50.
  • 2)Zhang L, et al. D-dimer levels on admission to predict in-hospital mortality in patients with Covid-19. J Thromb Haemost 2020; 18: 1324-9.
  • 3)Ackermann M, et al. Pulmonary vascular endothelialitis, thrombosis, and angiogenesis in Covid-19. N Engl J Med 2020; 383: 120-8.
  • 4)Ronco C, et al. Management of acute kidney injury in patients with COVID-19. Lancet Respir Med 2020; 8: 738-42.

調査結果については下記ホームページに公開。
厚労省難治性疾患政策研究事業「血液凝固異常症等に関する研究」班
https://ketsuekigyoko.org/news/items/docs/20201208154323.pdf

日本血栓止血学会
http://www.jsth.org/wordpress/wp-content/uploads/2020/12/COVID-19関連血栓症アンケート報告書ホームページ掲載版.pdf

日本動脈硬化学会
http://www.j-athero.org/topics/pdf/201208_COVID19_houkoku.pdf

(本内容はTherapeutic Research 2020年12月号に掲載)

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