[ニュースリリース] 2016 No.48
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発表日 2016年12月17日
うつ病の重症度に関連する血中代謝物を同定
うつ病の客観的診断法につながる可能性

九州大学,大阪大学,国立精神・神経医療研究センターの共同研究グループは,抑うつ症状を呈する患者の血液をメタボローム解析し,うつ病の重症度に関連する20種類の血中代謝物を同定した。PLoS One. 2016; 11: e0165267に掲載された。

これまで抑うつ症状の重症度の評価は,精神科医による診察や本人が記入するアンケートにより行われていたが,いずれも主観的な訴えや態度に基づくものであり,より客観的な評価法の開発が求められていた。

研究グループは,九州大学病院,大阪大学医学部附属病院,国立精神・神経医療研究センターを受診した抑うつ患者を対象に,症状の重症度をHAM-D*1,PHQ-9*2の2つの尺度を用いて評価した。さらに患者の血液について質量分析を用いたメタボローム解析*3を行い,100種類以上の血中代謝物と症状の重症度との相関を調べた。その結果,症状の重症度に関連する20種類の血中代謝物が同定され(表1),とくに3-ヒドロキシ酪酸*4,ベタイン*5など5つの代謝物(表1 赤字)が重症度に強く関連することが明らかとなった。

表1 抑うつ重症度に関連する血中代謝物(赤字は3つの医療機関で共通して抑うつ重症度との強い関連がみられた物質)
表1

さらに,抑うつ気分,罪悪感,自殺念慮など,症状ごとに関連する代謝物が異なることも明らかとなった(図1)。たとえば自殺念慮には,ミクログリア*6との関連が示唆されるキヌレニン経路の代謝物が強く関連していた。

図1
図1 うつ病の各種症状に関連する血中代謝物(赤い線は正の相関,青い線は負の相関,線が太いほど相関が強いことを示す)

この結果は,血中代謝物の情報からうつ病を客観的に診断する方法につながると考えられるほか,うつ病の病態の解明や,見いだされた代謝物を標的とした新しい治療法の開発にも結びつくことが期待される。

*1 HAM-D:ハミルトンうつ病評価尺度。精神科医や臨床心理士等の専門家による15分程度の面接でうつ病の各種症状の程度を点数化する。合計点数が高いほど抑うつ重症度が高いことを示す。
*2 PHQ-9:精神科以外での活用を目的に開発された,自己記入式質問票による抑うつ重症度評価尺度。うつ病に関連する9つの質問項目に患者が回答する。
*3 メタボローム解析:血液などの生体試料中に存在する低分子化合物を,質量分析等により網羅的に分析する手法。
*4 3-ヒドロキシ酪酸:ケトン体の1つ。絶食や飢餓によりエネルギー源が枯渇すると,肝臓でアセチルCoAから作られ,糖質の代替エネルギーとして使われる。
*5 ベタイン:コリンの代謝産物。トリメチルグリシンともいう。
*6 ミクログリア:脳内に存在する免疫細胞で,感染やストレスなどさまざまな要因により活性化され炎症性サイトカインを産生する。過剰な活性化ではニューロン傷害が引き起こされる。

【問い合わせ先】
九州大学大学院医学研究院精神病態医学分野(先端融合医療レドックスナビ研究拠点)
特任准教授 加藤隆弘
TEL: 092-642-5627 FAX: 092-642-5644
Email: takahiro(a)npsych.med.kyushu-u.ac.jp ※(a)は@

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