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[学会情報]第27回日本心電学会学術集会
(2010年10月8~9日 in 大分)
編集部が選ぶ注目セッション
シンポジウム
心房細動治療の“そもそも”:治療する目的は?
そのための標的は?
座長
山下 武志 氏(財団法人心臓血管研究所)
高橋 尚彦 氏(大分大学医学部臨床検査診断学講座)

傾聴と支援を主眼とした心房細動外来や,メタボリックシンドロームとの関連,カテーテルアブレーションなどの非薬物的治療について,5名のシンポジストが講演した。

●患者ナラティブを重視した診療所での心房細動外来診療—傾聴と支援を主眼とする外来の実践を通して—
小田倉 弘典 氏(土橋内科医院)

心房細動は慢性化しやすい進行性の疾患であり,また現在ではさまざまな治療法が選択できるようになっている。そのため,患者が継続して積極的に治療に関与し,患者自身で治療に対する意思を決定することが重要である。そこで,傾聴と支援を主眼とする心房細動外来を実施し,イベントの抑制,患者満足度,意思決定における有効性を検討し,その結果を報告した。

心房細動外来非実施例(2004年3月~2007年3月,103例)と実施例(2007年4月~2010年7月,109例)を対象とし両者を比較したところ,有効性には差はみられなかったが,実施例ではワルファリンによる小出血の発生率が抑制された。また,実施例ではワルファリン導入,レートコントロールへの移行,カテーテルアブレーションへの同意が得やすく,患者満足度も高かった。

小田倉氏は「コストパフォーマンスなどの問題もあるが,心房細動外来において医師と患者の信頼関係を構築することにより,患者満足度を向上させ,意思決定の円滑化を促したと考えられる」とまとめた。

●心房細動発症の危険因子としてのメタボリックシンドローム関連疾患の重要性:the Niigata Preventive Medicine Study
渡部 裕 氏(新潟大学医学部第一内科)

心房細動とメタボリックシンドロームには,それぞれ複数の危険因子が特定されているが,そのうち酸化ストレスと炎症は両者に関与する因子である。そこで新潟県成人病予防協会の健診データを用いて,メタボリックシンドロームとその関連疾患が,心房細動の発症に関与しているかを検討し,その結果を報告した。

平均4.5年間,28,449例のデータを解析したところ,265例が心房細動を発症しており,メタボリックシンドロームの診断基準のうち,肥満,高血圧,耐糖能異常,低HDLコレステロール血症が心房細動の発症に関与していた。また,スタチンが心房細動の発症リスクを低下させるとの報告がなされていることから,心房細動と脂質異常症の関連について検討したところ,低HDLコレステロール血症例と低LDLコレステロール血症例では心房細動の発症リスクが高かった。さらに,メタボリックシンドロームとの関連が強いと考えられている非アルコール性脂肪性肝炎との関連について,多変量解析を行った結果,AST値,ALT値,γGTP値が高い例では心房細動を発症しやすいことが示された。

●血液生化学的指標で心房細動に対するアブレーション治療後の再発を予知し得るか?
奥村 恭男 氏(日本大学医学部内科学系循環器内科学分野)

近年,技術の進歩により心房細動に対するカテーテルアブレーションの有効性は確立されつつあるが,他の不整脈に対するアブレーションよりも合併症が発生しやすく,再発率も高いという問題がある。一方,心房細動患者では炎症や線維化を反映する血液生化学的指標が上昇していることが報告されている。そこで,血液生化学的指標を用いて,1回のカテーテルアブレーションによる効果を最大限に発揮できる症例を選別できるかを検討した。

カテーテルアブレーションを施行した心房細動患者45例を対象とし,血液生化学的指標と1回のカテーテルアブレーションの成功率および電気生理学的指標との関連性を検討したところ,マトリックスメタロプロテイナーゼ-2(MMP-2)値が心房細動の再発と関連していることが示された。

奥村氏は「心筋線維化マーカーであるMMP-2は,カテーテルアブレーション後の心房細動の再発だけでなく,電気生理学的に心房筋リモデリングが進行した難治例も高率に予測することが可能である。MMP-2は,術前のアブレーション法の選別において,簡便な指標となり得ると考えられる」と結んだ。

●非薬物療法による心房細動根治の重要性
杉浦 伸也 氏(三重大学大学院医学系研究科循環器内科学)

J-RHYTHMなどの大規模臨床試験の結果から,心房細動に対する薬物的リズムコントロールの限界が明らかとなった。また,抗不整脈薬には少なからず心機能抑制作用がある。そこで,持続性・永続性心房細動に対するカテーテルアブレーション後,抗不整脈薬が心機能に与える影響について検討し,その結果を報告した。

カテーテルアブレーションにより洞調律化した持続性・永続性心房細動患者43例を対象とし,抗不整脈薬を3ヵ月間投与した。この時点で心房細動が再発していなければ抗不整脈薬を中止し,その後12ヵ月間追跡した。その結果,43例中31例(72%)の患者で,無投薬にて洞調律を維持し,このような患者では,左房径,心房収縮期波(A波高),BNP値,左室機能も有意に改善された。抗不整脈薬を中止できなかった患者では,メタボリックシンドローム,スタチンの服用,左房天井焼灼の施行率が高いことが示された。

●心房細動のアブレーションは何のために行うのか?
熊谷 浩一郎 氏(福岡山王病院ハートリズムセンター/国際医療福祉大学大学院)

心房細動に対するカテーテルアブレーションの適応は,通常,症状が強く,薬剤抵抗性の症例である。しかし,実際には必ずしも適応どおりではなく,なにを目的としてカテーテルアブレーションを実施したのか,また,その目的が達成されたのか不明な場合も多い。そこで,カテーテルアブレーションを施行した心房細動患者にアンケート調査を行い,その結果を発表した。

対象は,カテーテルアブレーションを実施した心房細動患者100例(症候性81%,無症候性19%)。調査の結果,カテーテルアブレーションを受けた理由として,症状の強さや薬剤抵抗性だけでなく,抗不整脈薬やワルファリンの敬遠,脳梗塞への恐怖や前医の勧めなど,医師による適応と患者の希望にはギャップがあることが明らかになった。また,患者の症状の改善度(期外収縮の残存など)と医師の考える成功率にもズレが存在していた。

熊谷氏は「心房細動患者は脳梗塞・死への恐怖や薬物への不安が強く,根治を希望している。カテーテルアブレーションは症状の消失のみならず,心房細動による恐怖や不安を解消しうる満足度の高い治療法であるが,患者の希望に沿った適応も考慮すべきである」と提言した。

各講演終了後,座長とシンポジストによる総合討論が行われた。患者の視点に基づく治療と早期介入の重要性が強調され,そのためには一次予防や,医師教育が必要であるとの意見が相次いだ。座長の山下氏は「これまでの抗不整脈薬を中心とした治療を脱却し,生活習慣の改善などに重点を移すことで,新たな心房細動治療のパラダイムへとつながることが期待される」としめくくった。

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