ついにワルファリンに代わる治療が見つかった |
■RE-LYの結果をみて
RE-LYの結果は,抗血栓療法に大きなパラダイムシフトをもたらす,とてもエキサイティングなものだと思います。ついにワルファリンに代わる治療が見つかったのですから。
RE-LY試験では,ワルファリン群の治療はオープンラベル,評価項目はブラインドというPROBEデザインで行われていますが,これは大きな問題ではないと思います。また,ダビガトラン(dabigatran etexilate)* を服用した患者の数は12,000例以上にのぼります。RE-LYで安全性に問題がなかったのであれば,おそらくリアルワールドでも「ない」と考えてよいでしょう。
*dabigatran etexilateはダビガトランのプロドラッグ。服用後,速やかにダビガトランに変換される。本邦未承認。
■ダビガトランのメリットとデメリット
ダビガトランは非常に実用性の高い薬だと思います。ダビガトランを用いるメリットは,ワルファリンのように食事や併用薬との相互作用を考えなくてもよいことです。INRのモニタリングも必要ありません。こうした新しい選択肢があることを説明すれば,患者はおそらくダビガトランを選ぶのではないでしょうか。
ただし,注意が必要な点もいくつかあります。まず一つは,消化管出血が増えることです。しかしこれは生命を脅かすようなものではありませんから,まずはダビガトランで治療を開始し,消化管出血がみられたらワルファリンに変更する,という方針をとることも可能です。二つ目は,ワルファリンよりも薬価が高いこと。三つ目は,1日に2回服用しなくてはいけないことです。
■臨床へのインパクト
ダビガトランは2種類の用量で検討されました。実際に臨床に応用するにあたっては,これら二つの用量のデータを具体的にきちんと検証する必要があります。
すでにワルファリンを服用している患者では,治療状況をみてダビガトランへの切替えを判断する必要があります。ワルファリンでコンプライアンスがよく,INRも治療範囲内におさまっているのであれば,あえてダビガトランに変える必要はないでしょう。一方,INRのコントロールが不良であったり,モニタリングに問題があったりするのであれば,ダビガトランへの変更を考えるというようになると思います。
あらたに抗血栓療法を開始する患者に対しては,私はダビガトランを選ぶと思います。もちろん,ワルファリンから投与を開始したほうがいい患者もいます。たとえば胃食道逆流症がある場合や,消化管出血のリスクが高い場合などです。
私は,新規薬剤を使うときは,その薬剤を検討した臨床試験について,「方法」の項の登録基準と除外基準をじっくりと読み,実際の臨床で薬をどのように使えばよいかを慎重に判断しています。RE-LYの結果を適用できない患者がいる一方で,まさに適用すべき患者もいますので,このようなプロセスが重要だと思います。
■特定の条件でのダビガトランの使用
これから取り組むべき課題もあります。電気的除細動,心臓移植前の補助循環,手術やその他の手技を行う患者でのダビガトランの使用に関しては,今後の議論が必要です。
たとえば,ワルファリンには,すでに電気的除細動時の使用に関するデータがあり,ワルファリンを3週間服用してINRが許容範囲内であれば,電気的除細動を考えてもよいことが示されています。ダビガトランには,このようなデータがまだありません。ダビガトランを使う場合,電気的除細動時に経食道心エコーを行う,あるいはダビガトランに変更する前にしばらくワルファリンを用いる必要があるかもしれません。