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[学会情報]米国心臓協会(AHA)学術集会2010
EXPERT COMMENT
Gibbons氏に聞く — ACT
造影剤誘発性腎症はもはや無視できない問題

近年,造影法が広く行われるようになり,造影剤誘発性腎症の問題が注目されています。高齢化や糖尿病患者の増加に伴い,造影剤誘発性腎症の発症率はさらに高まりつつあります。しかしこれまで調べられてきた造影剤誘発性腎症の発症率は,評価の基準やどのくらい注意深く評価したかという点に大きく依存していました。通常はサローゲートマーカーとして血清クレアチニンが用いられますが,造影剤誘発性腎症を見出すのは複雑さを増しています。用いられる造影剤やその用量のバリエーションが増えているからです。

しかし,造影剤誘発性腎症はもはや無視できない問題であることは明らかであり,造影剤誘発性腎症発症を予防するための戦略を立てることは急務となっています。British Medical Journalに投稿された,アセチルシステインに関するメタアナリシスでは,個々の臨床試験の間に大きな異質性があることが示され,アセチルシステインの有用性は疑わしいものになりました。私は長年AHAのガイドライン作成メンバーを務めてきましたが,AHAはアセチルシステインを使うべきかどうかについて,どのような立場もとっていません。これまでのデータは,どのような立場を表明するにも不十分だったためです。

われわれは基本に立ち返らなければならない

しかし実際の医療現場では,アセチルシステインが広く使われています。今回の結果は,エビデンスのない医療を安易に臨床現場に持ち込んではならないということを,われわれに示したといえるでしょう。アセチルシステインは低コストで使いやすいため,つい手を出してしまいがちですが,これは結果的に,患者のケアによくない影響をもたらしています。つまり,医師たちはアセチルシステインの効果をあてにして,適切なハイドレーションを実施するという最も重要な基本を忘れてしまっているのです。さらに,「アセチルシステインを投与しておけば造影剤の投与量を増やしても構わない」と考える医師さえ存在します。造影剤誘発性腎症を回避するためには,適切なハイドレーションを行い造影剤の使用を最小限におさえなければならないことを,私たちは知っているはずです。

アセチルシステインのことの始まりは,1999年のAHAミーティングで提出された,「アセチルシステインは腎機能維持に有用である」とした動物実験の資料でした。その後,小規模の臨床試験が行われ,これがNew England Journal of Medicineに掲載されると,アセチルシステインの使用は一気に拡がりました。

今回のACT試験は十分な検出力をもち,よくデザインされた大規模臨床試験です。そしてその結果は,アセチルシステインを用いるべきではなく,臨床医は基本に立ち返らなければならないことを明確に示しました。

私は,造影剤誘発性腎症は今後,とくに糖尿病患者で非常に大きな問題になると考えています。また,造影剤誘発性腎症治療には莫大なコストがかかります。造影剤誘発性腎症そのものは数週間で解決することが多く,その間の死亡率はさほど高くはありません。しかし,造影剤誘発性腎症は退院を遅らせ,入院期間とその治療を増やします。この問題に取り組むためには,造影剤誘発性腎症発症を予防するための新たな治療薬を模索していく必要があると思います。その一つの可能性として,重炭酸塩が期待されています。

<→ACT: 冠血管造影法施行患者におけるアセチルシステインの腎アウトカム予防効果を評価する実践的多施設共同ランダム化比較試験>

Profile: Dr. Raymond Gibbons
Professor of Medicine, Mayo Clinic, Rochester, Minnesota

専門は,急性冠症候群,梗塞の評価,心筋サルベージ,核心臓学研究など。2006~2007年のAHAの会長を務める。

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