発表では十分に強調されなかったのですが,そもそもAIM-HIGH試験の目的は,ニコチン酸(ナイアシン)製剤の有効性そのものの検証ではなく,LDL-C値の管理が良好な患者に対し,HDL-C値を上昇させることの有用性を検討した試験です。したがって,本試験の結果からナイアシンそのものの有用性について断定することはできません。本試験の結論によってナイアシンの存在意義が否定されることはあってはならないと思います。
その結論には無理があるでしょう。AIM-HIGH試験の症例数でHDL-C値の上昇が有用であるという仮説を検証することは,統計学的に無理があります。これははじめから予想されていたことです。
さらに本試験では,薬剤投与時の盲検を維持するために,偽薬としてプラセボ群にも50mg/日のナイアシンが投与されています(ナイアシン群では1,500~2,000mg/日)。今回の発表では,プラセボ群のこのナイアシン投与量は影響のないレベルであるとされましたが,プラセボ群で1年後のHDL-C値が増加し4年後まで維持されていること,その増加はナイアシン群の増加と並行に推移していることから,その解釈は間違いであるといわざるを得ません。この“プラセボ群”での3年後のHDL-C値(中央値)は38mg/dLであるのに対し,ナイアシン群では42mg/dLであり,驚くべきことに4mg/dL しか違いがないのです。
たしかに患者がすでに最適な薬物療法で治療され,ナイアシンによるさらなる利益を示せなかった可能性はあります。しかしながら一次エンドポイントの発生率は16.3%であり,1年あたりに換算すると5.4%です。ですからAIM-HIGH試験の対象は,さらなる治療の余地のある患者であったと捉えています。
また,全体の94%の患者が服薬していたスタチンの影響に関しては,今後数ヵ月で報告があると思われますが,私としては,エゼチミブが両群に投与されたことにも詳しい分析をする必要があると考えています。さらに,ベースラインでナイアシンを服薬していた20%の患者では,ナイアシンの“遺産効果”が影響した可能性があります。これらの交絡因子による影響については慎重に評価する必要があります。
臨床医の皆さんに伝えたいのは,このAIM-HIGH試験に基づいてナイアシン投与の是非,HDL-C値を上昇させることの是非について判断すべきではないということです。本試験は,対象者数,追跡期間,イベント数のすべてにおいて不十分でした。現在,25,000例をこえる大規模試験,HPS-2 THRIVEが行われており,2013年には終了する見込みとなっています。その結果が発表されることによってはじめて,われわれはナイアシンについて議論することができるのです。