先に行われたTRITON TIMI 38試験では「PCI施行患者」,今回のTRILOGY ACS試験では「PCI施行予定のない薬物治療中の患者」を対象に,プラスグレルの有用性がクロピドグレルと比較されました。すなわちこの2つの試験で,急性冠症候群の治療スペクトラムの両極端に位置する,「薬物療法」と「インターベンション治療」双方における新薬の有用性が検討されたのです。
TRILOGY ACSの対象者の78%は75歳未満の患者でした。結果を総合的にみて,クロピドグレルに対するプラスグレルの優越性は認められません。しかし,追跡期間が1年以降になると,エンドポイント発生率の2群の曲線の差が開きはじめ,プラスグレルを投与した患者ではクロピドグレルを投与した患者に比べて予後が良好であることが示唆されました。なぜ1年後からこのようなことになったのか,現在のところ,理由を示す十分なデータはありません。これを明らかにするためには,さらなる研究が必要です。
このあと75歳以上の患者におけるプラスグレル5mgの作用についても発表があるでしょう。重要な患者グループですので,私も詳細情報を知りたいと思っています。この5mgという用量は,TRITON-TIMI38試験で75歳以上または体重60kg未満の患者の出血が多かったことを受けて,半分に減量されたものです。TRILOGY ACSでは5mgが投与された患者群の出血について問題になっていません。さらに徹底的な調査が必要ではあるものの,一日の維持用量を減量したことによって,高齢者の出血リスクが改善したというのは嬉しい情報です。
現在発表されている結果だけを基にして,「中立的な試験結果」と評するのは,飛躍し過ぎていると思います。というのも,TRILOGY ACS試験は,TRITON TIMI 38試験のようなプラスグレルの早期効果を示すことが困難な試験デザインになっているからです。TRILOGY ACS試験の患者は急性冠症候群発症後,ランダム化されるまでに4.5日(中央値)かかっています。つまり,医師はこの4.5日のあいだに,患者にPCIを施行するか,あるいは薬物療法を実施するかを決定したのですが,意思決定がなされるまでのあいだも患者は治療を受けなければならないため,結果的にすべての患者がこの間にクロピドグレルを服用しました。全例がイベント発症後早期に対照薬を服用していることになるので,プラスグレルの早期効果を示すことは困難であると考えられます。
われわれは,まだ試験結果の一部しか知りません。75歳以上の患者についても詳しく知る必要がありますし,血小板に関するサブ解析結果の発表もまたれます。これらについては,2012年11月に開催される米国心臓協会(AHA)学術集会2012で発表されるでしょう。TRILOGY ACSのような複雑な大規模試験では多くの情報が出されるので,一部の表面的な結果をみただけですべてを判断してはいけません。
抗血小板薬では,ticagrelorに関しても同様の患者集団を対象としたPEGASUS試験が進行中です。同試験から得られる結果もまた,急性冠症候群患者にどのような薬物療法をしたらよいかを判断する際の有用な手掛かりとなるでしょう。