3月29日〜31日の3日間,米国,フロリダ州オーランドにおいて,第58回米国心臓病学会(ACC)学術集会が開催された。同じ会場では,インターベンション領域を対象にしたi2 Summitも同時開催された(こちらは3月28日〜31日)。
プログラムには最先端の臨床知見やテクノロジーを発表するセッションから,生涯教育のセミナーまで含まれ,米国内外の心血管領域の専門家が一堂に会している。
なかでも “Late-Breaking Clinical Trials (LBCT)”は,とくに注目のスペシャルセッションで,どれも今回初めて発表される試験である。LBCTとして発表される全43試験のうち,ここではとくに日本の臨床医の関心が高いと思われる試験を取り上げ,その発表概要を紹介する。
ARMYDA-RECAPTURE | Efficacy of Atorvastatin Reload in Patients on Chronic Statin Therapy Undergoing Percutaneous Coronary Intervention. Preliminary Results of the ARMYDA-RECAPTURE (Atorvastatin for Reduction of MYocardial Damage during Angioplasty) Randomized Trial |
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Germano Di Sciascio (ローマ,イタリア) |
試験背景/目的 2004年に報告されたARMYDA試験では,スタチンを服用していない安定狭心症患者において,PCI前の短期間のアトルバスタチン投与が心筋梗塞発症を抑制することが明らかにされた。また,急性冠症候群(ACS)を対象としたARMYDA-ACS試験でも同様に,アトルバスタチンの主要血管イベント抑制効果が示されている。しかし,これらはいずれもスタチンを服用していない患者を対象にしており,スタチン服用中の場合の検討は行われていなかった。
そこで今回,スタチンをすでに服用中の安定狭心症あるいは非ST上昇型ACSを対象とし,PCI前における短期間アトルバスタチン投与の心血管イベント抑制効果を検討するARMYDA-RECAPTURE試験が企画された。この試験はプラセボ対照の二重盲検ランダム化比較試験である。
3月30日のi2 Summit LBCT III において,Germano Di Sciascio氏(Campus Bio-Medico University,ローマ,イタリア)がこの試験の結果を発表した。
一次エンドポイントは,PCI実施30日後における心血管イベント発生率(心血管死,心筋梗塞[トロポニンあるいはクレアチニンキナーゼMBで評価],標的血管血行再建術[TVR])。
二次エンドポイントは,PCI実施前後での心筋障害マーカー(トロポニンI,クレアチニンキナーゼMB)の変化,ベースラインからPCI後までのCRPの変化,安定狭心症あるいはACSの臨床所見の発生。
試験プロトコール 対象はスタチンを30日以上投与されている,安定狭心症または非ST上昇型ACS患者。
ST上昇型急性心筋梗塞,2時間以内の緊急手術を要する非ST上昇型ACS,AST/ALT高値,LVEF<30%,クレアチニン>3mg/dLの重篤な腎不全,腎疾患あるいは筋疾患の既往をもつ症例は除外された。
アトルバスタチン群では,PCI実施12時間前にアトルバスタチン80mg,2時間前に40mgを投与。プラセボ群では同じタイミングでプラセボを投与した。
その後PCIが行われた症例数は,アトルバスタチン群177例,プラセボ群175例。
試験結果 平均年齢はアトルバスタチン群66歳,プラセボ群66歳。糖尿病罹患率は35%,34%,心筋梗塞既往例32%,37%,LDL-Cは92mg/dL,93mg/dL,スタチン投与期間は9.1ヵ月,9.2ヵ月,慢性安定狭心症の臨床所見を示す患者は54%,54%,非ST上昇型の心筋梗塞あるいはACSの臨床所見を示す患者は46%,46%。
薬剤溶出ステントを実施した患者は33%,37%,GPIIb/IIIa阻害薬を用いた患者は12%,12%。
30日後における複合一次エンドポイント発生率は,アトルバスタチン群(3.4%)はプラセボ群(9.1%)に比べ有意に低かった(P =0.045)。なお,心血管死はそれぞれ0%,0.5%,心筋梗塞は3.4%,8.6%,TVRは0%,0.5%。
二次エンドポイントの結果は次のとおり。クレアチニンキナーゼMBの増加,トロポニンIの増加はいずれも,アトルバスタチン群(13%,36%)はプラセボ群(23%,47%)に比べ有意に少なかった(P=0.023,P=0.032)。PCI後におけるCRPの増加は,有意な群間差なし。安定狭心症の臨床所見の発生率については有意な群差は認められなかったが,ACSの臨床所見の発生率は,アトルバスタチン群(2.4%)はプラセボ群(13.8%)に比べ有意に低かった(P =0.016)。
以上の結果は,高用量アトルバスタチンの短期間の術前投与は,すでにスタチン服用中の患者であっても,良好な臨床アウトカムをもたらすことを示している。とくにACSを認める患者では,リスク減少率87%,NNT=9だった。
Germano Di Sciascio氏は,これらの結果について,LDL-Cに依存しない心血管保護作用である,抗炎症作用,抗凝固作用,内皮機能改善作用などが寄与した可能性について言及した。コメンテーターのRobert A. Harrington氏は,「PCI前においては,血栓生成や炎症反応がともに亢進しているため,抗血栓療法のほかにも炎症をターゲットとする治療が必要である」と述べ,スタチンがその選択肢となりうる可能性に期待を寄せている。
< 2010.7.01 >
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THERAPEUTIC RESEARCH vol.31 no.6 2010
< 2010.6.28 >
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No.17 – 2010: 「「アマリール®」が小児2型糖尿病患者にも使用可能に」ほか
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< 2010.5.31 >
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THERAPEUTIC RESEARCH vol.31 no.5 2010
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