[学会情報]米国心臓病学会学術集会(ACC)2009&i2 Summit
(2009年3月29日〜31日 in オーランド)
編集部が選ぶ注目トライアル
Late-Breaking Clinical Trials
acc2009

3月29日〜31日の3日間,米国,フロリダ州オーランドにおいて,第58回米国心臓病学会(ACC)学術集会が開幕した。同じ会場では,インターベンション領域を対象にしたi2 Summitも同時開催されている(こちらは3月28日〜31日)。

プログラムには最先端の臨床知見やテクノロジーを発表するセッションから,生涯教育のセミナーまで含まれ,米国内外の心血管領域の専門家が一堂に会している。

なかでも “Late-Breaking Clinical Trials (LBCT)”は,とくに注目のスペシャルセッションで,どれも今回初めて発表される試験である。LBCTとして発表される全43試験のうち,ここではとくに日本の臨床医の関心が高いと思われる試験を取り上げ,その発表概要を紹介する。

<Late-Breaking Clinical Trials I>
Pre-RELAX-AHF Study Relaxin, a Novel Treatment for Acute Heart Failure: The Results of the Pre-RELAX-AHF Study
リラキシン: 急性心不全に対する新規薬剤: Pre-RELAX-AHF Study

John R. Teerlink
John R. Teerlink
(Veterans Affairs Medical Center, University of California, San Francisco,米国)

【3月29日・オーランド】
試験背景/目的 米国において,急性心不全による入院は過去30年間で3倍に増加し,現在,年間100万件以上と報告されている。急性心不全患者では,90%以上が呼吸困難を呈し,その改善は臨床的に重要なターゲットである。

女性ホルモンのリラキシンは妊婦の血行動態に働き,血管の拡張作用,心臓の圧力低下作用をもつことから,心不全患者において,呼吸困難の改善に有用ではないかと考えられ,Pre-RELAX-AHF試験が企図された。

この試験はリラキシンの4つの用量とプラセボとを比較した前向きランダム化比較,第IIb相試験で,急性心不全患者にリラキシンを静注し,その安全性と最適な用量を検討することを目的としている。

3月29日のACC09 LBCT Iにおいて,John R. Teerlink氏(University of California)が試験の結果を発表した。

エンドポイントは以下のとおり:(1)呼吸困難の改善,(2)入院中—心不全の徴候・症状の改善,心不全の悪化,入院期間,腎機能の変化,(3)退院後—60日後の退院状態での生存,60日後の心血管死亡+心不全または腎不全による再入院,180日後の心血管死亡など。

試験プロトコール Pre-RERAX-AHF試験の参加施設は8ヵ国,54施設。対象は18歳以上,急性心不全発症後16時間以内の患者で,収縮期血圧>125mmHg,腎機能障害を有する(クレアチニンクリアランス 30〜70mL/分)患者に限定した。

発熱(>38℃),急性造影剤誘発腎症/最近の造影剤の服用,変力作用薬/昇圧薬/血管拡張薬(低用量硝酸薬を除く)の静注を実施中(または予定),循環補助装置/呼吸補助を使用,重篤な肺疾患/肝疾患,重度の狭窄弁疾患,45日以内の急性冠症候群,トロポニン値>正常上限値の3倍の症例,最近の臓器移植歴(または予定),30日以内の大手術,は除外された。

フロセミド 40mgを静注した後,プラセボ群に61例,リラキシン10群(リラキシン 10μg/kg/日)に40例,リラキシン 30群(30μg/kg/日)に42例,リラキシン 100群(100μg/kg/日)に37例,リラキシン 250群(250μg/kg/日)に49例がランダムに割付けられ,48時間かけて投与し,180日まで追跡している。

試験結果 急性心不全発症からランダム化までの平均時間は8.4時間(中央値6.6時間),試験薬はさらにその平均1.8時間後に投与開始した。

48時間後,ベースライン時の収縮期血圧>140mmHgの症例では,リラキシン群ではプラセボ群に比し有意な降圧効果が認められた(P =0.04)。一方,≦140mmHgの症例ではプラセボ群との差は認められていない。

投与24時間以内において,呼吸困難が改善を報告した患者の割合はリラキシン 30群でもっとも多く,40%にみられ(P =0.04 vsプラセボ群),この効果は14日後も継続していた。リラキシン30群では,いずれの入院中のエンドポイントに関しても良い結果を示し,さらに180日後の心血管死亡においても4群間でもっとも発生率が低かった(ハザード比0.00,95%CI 0.00〜0.98,P <0.05 vs プラセボ群)。

低血圧や腎障害などの有害事象はリラキシン 250群でもっとも多く発生する傾向にあった。これらの結果を踏まえ,Teerlink氏は「もっとも効果の高かったリラキシン 30μg/kg/日によってさらなる研究を行う予定」と今後の方針を述べた。

パネリストのMihai Gheorghiade氏(シカゴ,米国)は,ランダム化までの時間が中央値6.6時間と非常に短時間であることに触れ「これは血圧や腎機能がまだ良い状態で,症状も多く,介入がなされていないことを意味しており,非常に重要なポイント」と述べ,「急性心不全の試験実施における新たな扉を開いた」と賞賛した。