[学会情報]米国心臓協会学術集会(AHA)2009
(2009年11月14日〜18日 in オーランド)
編集部が選ぶ注目トライアル 
Late-Breaking Clinical Science III
AHA2009

11月14日〜18日,オーランド(米国)において,米国心臓協会(AHA)の学術集会が開催された。本学会には心血管領域の専門家が世界各地から集まり,発表演題の数が多いだけでなく,その質が高いことから循環器分野における最高峰の学会の一つといえる。5日間にわたり,7つの専門分野に分けて発表された。

ここでは,今年新たに加わったセッション”Late-Breaking Clinical Science”のなかから,とくに日本の臨床医の関心が高いと思われるセッションを取り上げ,その概要を紹介する。

 

<Late-Breaking Clinical Science III>
BARI 2D Quality of Life Results in the Bypass Angioplasty Revascularization Investigation 2 Diabetes Trial
BARI 2D試験におけるQOLの結果

Maria M Brooks, MD.
Maria M Brooks, MD.
(University of Pittsburg,米国)

試験背景/目的 BARI 2D試験は,冠動脈疾患を合併した2型糖尿病患者を対象とし,即時血行再建術(PCIまたはCABG)施行+積極的薬物治療と積極的薬物治療(+必要に応じて血行再建術),およびインスリンに対する2つの治療戦略(インスリン抵抗性改善治療,インスリン治療)の有効性を2×2のファクトリアルデザインで比較した試験。

対象患者は担当医によって,PCIを意図したグループか,CABGを意図したグループかに決められ,その後,血行再建術+積極的薬物治療群と積極的薬物治療群,インスリン抵抗性改善治療群とインスリン治療群にランダム割付けされた。

一次エンドポイントは全死亡,主要二次エンドポイントは主要心血管イベント(死亡+心筋梗塞+脳卒中)。本年(2009年)6月のNew England Journal of Medicine(N Engl J Med. 2009; 360: 2503-15[PubMed])に主要結果が報告された。一次エンドポイント,主要心血管イベントのいずれも,即時血行再建術+積極的薬物治療群と積極的薬物治療群間,あるいはインスリン抵抗性改善治療群とインスリン治療群の間で差はみられなかった。

今回,Maria M Brooks氏(University of Pittsburgh)は,Duke Activity Status Index(DASI)とRAND Medical Outcomes Study scalesを用いて,治療戦略とQOLの関連性について解析し,11月17日のLate-Breaking Clinical Science IIIにおいてその結果を報告した。

試験プロトコール BARI 2D試験参加者のうち,2,163例を解析対象とした。DASIにて「困難を伴わずに行うことのできる身体活動」を評価し,RAND Medical Outcomes Study scalesにて「活力」,「健康障害」,「自己評価による健康状態」を評価。ベースライン時および毎年1回,4年間測定し,線形混合効果モデルを用いて解析を行った。DASIは3ポイント,RAND scalesでは5ポイントで臨床的に有意な差があるとした。

試験結果 追跡開始から1年目の時点では全治療群で4項目いずれにおいても改善がみられた(「DASI」 2.33,「活力」 5.32,「健康障害」 -8.71,「自己評価による健康状態」 8.06,P<0.001)。また,3年目,4年目の時点でも同様の傾向がみられた。

即時血行再建術+積極的薬物治療群と積極的薬物治療群で比較すると,「DASI」では即時血行再建術群+積極的薬物治療群のほうが積極的薬物治療群よりも有意な改善がみられたが(P=0.002),「自己評価による健康状態」(P=0.017),「活力」(P=0.018),「健康障害」(P=0.40)では両群間で有意な差は認められなかった(有意水準=0.01)。

インスリン治療戦略別にみると,どの項目においてもインスリン抵抗性改善治療群とインスリン治療群の間で有意な差はなかった。

スケールの評価項目別にみると,「DASI」では,患者全体(P<0.01),CABGグループ(P<0.01),CCS分類1および2(P<0.05)のサブグループで,血行再建術+積極的薬物治療が積極的薬物治療よりも有意に優れていた。また「自己評価による健康状態」では,患者全体,CCS分類3および4のサブグループで,血行再建術+積極的薬物治療は積極的薬物治療よりも有効であった(両者ともP<0.05)。

この結果についてBrooks氏は「積極的薬物治療よりも,即時血行再建術+積極的薬物治療のほうが,すべての評価項目において有効であることが示されました。血行再建術の種類で比較すると,CABGのほうがPCIよりも,DASIスケールでの評価において優れていることが示されましたが,インスリンの治療戦略による違いは,いずれの評価項目においてもみられませんでした」とまとめた。

DiscussantのIleana L Pina氏(クリーブランドハイツ,米国)は,「この解析には評価項目の妥当性や,欠測データを解析から除外していることなど,臨床応用にあたって留意しなければならない点があります」と問題点も指摘したが,「医師は,患者が自分の健康状態についてどのように考えているのかを理解することが必要です」とQOL解析の重要性を強調した。