11月14日〜18日,オーランド(米国)において,米国心臓協会(AHA)の学術集会が開催された。本学会には心血管領域の専門家が世界各地から集まり,発表演題の数が多いだけでなく,その質が高いことから循環器分野における最高峰の学会の一つといえる。5日間にわたり,7つの専門分野に分けて発表された。
ここでは,今年新たに加わったセッション”Late-Breaking Clinical Science”のなかから,とくに日本の臨床医の関心が高いと思われるセッションを取り上げ,その概要を紹介する。
BARI 2D | The Impact of Different Treatment Strategies on Cardiac Death and MI Rates in Patients with Type 2 Diabetes and Stable Coronary Disease: A Report from BARI 2D |
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Comment: | Spencer B. King, III, MD | 重篤な患者ではCABGとインスリン抵抗性改善治療が有効 |
Bernard R Chaitman, MD (Saint Louis University,米国) |
試験背景/目的 BARI 2D試験は,冠動脈疾患を合併した2型糖尿病患者2,368例を対象とし,即時血行再建術(PCIまたはCABG)施行+積極的薬物治療と積極的薬物治療(+必要に応じて血行再建術),およびインスリンに対する2つの治療戦略(インスリン抵抗性改善治療,インスリン治療)を比較した2×2ファクトリアルデザインのランダム化比較試験である。
対象患者は担当医によってPCIかCABGかが決められ,その後,血行再建術+積極的薬物治療群と積極的薬物治療群,インスリン抵抗性改善治療群とインスリン治療群にランダム割付けされた。一次エンドポイントは全死亡,主要二次エンドポイントは主要心血管イベント(死亡+心筋梗塞+脳卒中)であり,本年(2009年)6月のNew England Journal of Medicine(N Engl J Med. 2009; 360: 2503-15[PubMed])に主要結果が報告され,一次エンドポイント,主要心血管イベントのいずれも,即時血行再建術+積極的薬物治療群と積極的薬物治療群間,あるいはインスリン抵抗性改善治療群とインスリン治療群の間で差はみられなかった。
今回,二次エンドポイントの心血管死,心筋梗塞,心血管死/心筋梗塞について,治療戦略とイベント発生の関連性についてのintent-to-treat解析が行われ,その結果が11月17日のLate-Breaking Clinical Science IIIにおいて,Bernard R Chaitman氏(Saint Louis University)により報告された。また同日,Circulation誌の電子版に論文が掲載された。
試験結果 5年間に316例が死亡し,279例が心筋梗塞を発症。5年間の全死亡,心血管死,心突然死,心筋梗塞,心血管死/心筋梗塞についてKaplan–Meier解析を行った結果,即時血行再建術+積極的薬物療群と積極的薬物治療群間,インスリン抵抗性改善治療群とインスリン治療群の間で有意な差はなかった。
死亡,心筋梗塞,脳卒中の発症については,再建術の種類(PCIもしくはCABG)による有意な差は認められなかった。心血管死/心筋梗塞の発生率は,インスリン治療戦略に関わらず,血行再建術+積極的薬物治療群よりも積極的薬剤治療群のほうが有意に低かった(vs PCI P=0.05,vs CABG P=0.03)。対象をPCIグループとCABGグループに分けて,心筋梗塞を発症した割合をみると,PCIグループでは治療群間で有意差はみられなかったが,CABGグループではインスリン治療群よりもインスリン抵抗性改善治療群のほうが有意に高かった(P=0.046)。PCIグループでは,死亡/心筋梗塞および心血管死/心筋梗塞の発生率は治療群間で有意差はなかった。CABGグループでは,薬物治療単独群と比べ血行再建術+積極的薬物療法群のほうが死亡/心筋梗塞の発生率が低く(P=0.01),心血管死/心筋梗塞の発生率が高かった(P=0.03)。
この結果についてChaitman氏は「PCIグループに入るような安定の冠動脈疾患合併2型糖尿病患者においては,積極的薬物治療を早期から考慮すべきで,狭心症の症状がコントロール可能であれば,心血管死や心筋梗塞の予防のためのPCIは不要です。CABGグループに入るようなより重症の冠動脈疾患合併2型糖尿病患者においては,心筋梗塞の発症を減少させるため,CABGや積極的薬物治療,インスリン補充治療を考慮しなければならないでしょう」とまとめた。
DiscussantのLars Ryden氏(Stockholm,スウェーデン)は,「冠動脈疾患治療のエビデンスは少なく,また糖尿病や血糖降下治療を受けている患者を明確に試したものもあまりありません。BARI 2D試験は対象患者を明確にしており,緻密な統計解析を行ったすばらしい試験です。心血管イベントだけでなく,二次エンドポイントも重要であることを明らかにし,そのメッセージは臨床的に重要です」と高く評価した。
< 2010.7.01 >
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THERAPEUTIC RESEARCH vol.31 no.6 2010
< 2010.6.28 >
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No.17 – 2010: 「「アマリール®」が小児2型糖尿病患者にも使用可能に」ほか
< 2010.6.24 >
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[トピックス] 脳卒中の予防啓発活動の重要性
< 2010.5.31 >
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