[学会情報]米国心臓協会学術集会(AHA)2009
(2009年11月14日〜18日 in オーランド)
編集部が選ぶ注目トライアル 
Late-Breaking Clinical Science IV
AHA2009

11月14日〜18日,オーランド(米国)において,米国心臓協会(AHA)の学術集会が開催された。本学会には心血管領域の専門家が世界各地から集まり,発表演題の数が多いだけでなく,その質が高いことから循環器分野における最高峰の学会の一つといえる。5日間にわたり,7つの専門分野に分けて発表された。

ここでは,今年新たに加わったセッション”Late-Breaking Clinical Science”のなかから,とくに日本の臨床医の関心が高いと思われるセッションを取り上げ,その概要を紹介する。

 

<Late-Breaking Clinical Science IV>
RE-DEEM Randomised Dabigatran Etexilate Dose Finding Study in Patients with Acute Coronary Syndromes Post Index Event with Additional Risk Factors for Cardiovascular Complications Also Receiving Aspirin and Clopidogrel (RE-DEEM)
抗血栓薬2剤併用の急性冠症候群患者におけるダビガトランの至適用量の検討
Comment: Jonathan L. Halperin, MD   RE-DEEM: さらなる検討が必要

Jonas Oldgren, MD.
Jonas Oldgren, MD.
(Uppsala Clinical Research Center,スウェーデン)

試験背景/目的 ダビガトラン(dabigatran etexilate)*は,煩雑なコントロールを必要としない新規トロンビン阻害薬であり,RE-LY試験では心房細動患者の脳卒中予防に対する有効性が示された。しかし,急性冠症候群患者に対する有効性および安全性はいまだ明らかになっていない。 RE-DEEM試験(第II相)は,急性冠症候群患者を対象に,アスピリンとクロピドグレルへの追加薬として,ダビガトランの4用量をプラセボと比較する,二重盲検ランダム化用量漸増試験である。

一次エンドポイントは,大出血(ISTH出血基準;致死性出血,主要部位あるいは臓器における症候性出血,≧20g/Lのヘモグロビンレベルまたは≧2 unitの輸血を要した出血),および臨床に意義のある小出血イベント(大出血の基準は満たさないが,臨床的に重大な出血)。二次エンドポイントは,凝集活性(Dダイマー濃度)と,複合エンドポイント(心血管死+非致死的心筋梗塞+非出血性脳卒中)である。

11月18日のLate-Breaking Clinical Science IVにおいて,Jonas Oldgren氏(Uppsala Clinical Research Center)がこの試験の結果を報告した。
*dabigatran etexilateはダビガトランのプロドラッグ。服用後,速やかにダビガトランに変換される。本邦未承認。

試験プロトコール 対象は心血管合併症の危険因子を一つ以上有し,アスピリンとクロピドグレルを服用しているST上昇型および非ST上昇型急性冠症候群患者1,878例。発症後14日以内に,プラセボ群(373例),ダビガトラン50mg群(372例,ダビガトラン50mgを1日2回投与),ダビガトラン75mg群(371例,ダビガトラン75mgを1日2回投与),ダビガトラン110mg群(411例,ダビガトラン110mgを1日2回投与),ダビガトラン150mg群(351例,ダビガトラン150mgを1日2回投与)にランダムに割り付けられ,6ヵ月間追跡された。

試験結果 患者背景は,平均年齢61.8歳,ST上昇型心筋梗塞既往60%,非ST上昇型心筋梗塞既往40%,PCI施行は54%,発症からランダム化までの平均日数は7.4日間。

心血管合併症の危険因子の保有率は,65歳以上44%,糖尿病31%,心筋梗塞既往29%,末梢動脈障害6%,左脚ブロック3%,うっ血性心不全12%,GFR 30〜60 mL/分9%,適応症例への血行再建術未施行 31%であった。

一次エンドポイントの180日間での発生率は,プラセボ群と比べ,ダビガトラン50mg群と75mg群は有意な差はなかったが,110mg群と150mg群では有意に高かった(P<0.01)。大出血の内訳を各出血基準(ISTH出血基準,TIMI出血基準,GUSTO出血基準)でみると,プラセボ群では0.5%,0.3%,0.3%,ダビガトラン50mg群では0.8%,0.3%,0.3%,75mg群は0.3%,0%,0%,110mg群では2.0%,1.2%,0.5%,150mg群では1.2%,0.3%,0%であった。

二次エンドポイントのDダイマー濃度は,プラセボ群と比べ,実薬群ではすべて減少していた(P<0.001)。複合エンドポイント(心血管死+非致死的心筋梗塞+非出血性脳卒中)の発生率は,すべての群の間で有意な差は認められなかった。

この結果についてOldgren氏は「1日2回服用で150mgまでの用量のダビガトランは,出血のリスクがやや増加するものの,2剤併用抗血栓治療への追加が虚血性イベントの予防に有効であるという結果が得られました。この結果は,急性冠症候群やステント植込み後の心房細動患者における結果からしても,妥当だといえます。また,本試験の結果は,急性冠症候群患者を対象とした,より大規模な臨床試験におけるダビガトラン110mgと150mgの臨床アウトカムの評価を追認するものであったといえるでしょう」とまとめた。

DiscussantのElaine M Hylek氏(Boston,米国)は,「ダビガトランを用いた3剤併用による抗血栓療法は2剤併用よりも虚血性イベント抑制に有効です」と支持。また,「一次エンドポイントの大出血には,もっとも感度の高いISTH出血基準が用いられている点には留意が必要であり,他の出血基準による結果も含めた解析を行うべきです」と指摘した。