11月14日〜18日,オーランド(米国)において,米国心臓協会(AHA)の学術集会が開催された。本学会には心血管領域の専門家が世界各地から集まり,発表演題の数が多いだけでなく,その質が高いことから循環器分野における最高峰の学会の一つといえる。5日間にわたり,7つの専門分野に分けて発表された。
ここでは,今年新たに加わったセッション”Late-Breaking Clinical Science”のなかから,とくに日本の臨床医の関心が高いと思われるセッションを取り上げ,その概要を紹介する。
RE-LY | Efficacy and Safety of Dabigatran Compared to Warfarin at Different Levels of INR Control for Stroke Prevention in 18,113 Patients with Atrial Fibrillation in the RE-LY Trial |
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Comment: | Jonathan L. Halperin, MD | RE-LY: ダビガトランとワルファリンの有効性に差はない |
Lars Wallentin, MD (Uppsala University Hospital,スウェーデン) |
試験背景/目的 心房細動(AF)患者の脳卒中予防には,長年,ワルファリンが用いられてきたが,コントロールの難しさから代替薬が望まれてきた。これまでいくつかの薬剤が検討されてきたなかで,RE-LY試験にて,新規トロンビン阻害薬,ダビガトラン(dabigatran etexilate)*のAF患者の脳卒中予防におけるワルファリンに対する非劣性が示された(N Engl J Med. 2009; 361: 1139-51[PubMed])。
しかし,ワルファリンのINR至適範囲内時間(TTR)は,患者,治療施設によってばらつきがある。RE-LY試験での平均TTRは64%であり,このことがダビガトランとワルファリンの有効性の比較結果に影響を与えた可能性もある。そこで,RE-LY試験参加者を対象とし,ワルファリンの各TTRレベルとアウトカムの関連性について詳細な後付け(post-hoc)解析を行い,その結果を11月15日のLate-Breaking Clinical Science IIにおいてLars Wallentin氏(Uppsala University Hospital)が発表した。
*dabigatran etexilateはダビガトランのプロドラッグ。服用後,速やかにダビガトランに変換される。本邦未承認。
方法 各施設の平均TTRを,各患者のTTRとして解析を行った。TTRレベル(四分位数)により,患者をTTR<56.9%層,56.9–65.4%層,65.4–72.4%層,>72.4%層に分け,各層においてワルファリン群とダビガトラン110mg群,150mg群を比較した。
試験結果 一次エンドポイント(脳卒中または全身性梗塞症)の年間発生率に関するダビガトラン110mgとワルファリンの比較では,いずれの層においても有意差はみられず(TTR<56.9%層 リスク比[RR] 1.1,95%信頼区間[CI] 0.73–1.6,56.9–65.4%層 RR 0.74,95%CI 0.51–1.1,65.4–72.4%層 RR 1.0,95%CI 0.65–1.5,>72.4%層 RR 0.88,95%CI 0.57–1.4),ダビガトラン150mgとワルファリンの比較では,いずれの層においてもダビガトラン150mgが優れる結果となり(TTR<56.9%層 RR 0.61,95%CI 0.39–0.96,56.9–65.4%層 RR 0.48,95%CI 0.32–0.74,65.4–72.4%層 RR 0.76,95%CI 0.48–1.21,>72.4%層 RR 0.88,95%CI 0.57–1.37),ともにTTRレベルによる有意な交互作用は認められなかった(P=0.27,P=0.41)。
一方で,全心血管イベントの年間発生率に関しては,TTRレベルによる有意な交互作用が認められた(vs ダビガトラン110mg群,P=0.04; vs ダビガトラン150mg群,P=0.002)。全死亡についても,TTRレベルによる有意な交互作用が認められた。いずれもTTR<56.9%層(つまりコントロール不良)でのみ,ダビガトランによるリスク減少が認められた(vs ダビガトラン110mg群 P=0.02; vs ダビガトラン150mg群 P=0.02)。
RE-LY試験における安全性の一次エンドポイントである大出血および頭蓋内出血の年間発生率に関してTTRレベルによる有意な交互作用はみられなかった。
ただし,この後付け解析には,施設の平均TTRデータを用いたため,各患者のINRコントロールレベルや,ダビガトランへの反応性の差異が反映されていないなど,多くの制限が存在する。
この結果について,Wallentin氏は「AF患者の脳卒中予防における有効性および安全性の一次エンドポイントに関しては,本試験の結果と同様に,この後付け解析からも,ワルファリンのINRコントロールレベルに関わらず,ダビガトランはワルファリンよりも有効であることが示されました。心血管イベントや死亡などの二次エンドポイントに関しては,INRコントロールが不良な場合,ワルファリンに比べ,ダビガトランは優れていることが示されました」と結んだ。DiscussantのDaniel Singer氏(Boston,米国)は,「本解析は施設基準のTTRレベルによる比較であり,患者レベルのデータが反映されていないという限界が存在するものの,ダビガトラン群における頭蓋内出血の発生率が非常に低いことは,それを上回る魅力です」と賞賛。そのうえで,「INRコントロールが良好な患者においてもダビガトランに切り替える必要性があるのかについては,詳細なデータによる検討が必要です」と述べた。
< 2010.7.01 >
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THERAPEUTIC RESEARCH vol.31 no.6 2010
< 2010.6.28 >
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No.17 – 2010: 「「アマリール®」が小児2型糖尿病患者にも使用可能に」ほか
< 2010.6.24 >
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[トピックス] 脳卒中の予防啓発活動の重要性
< 2010.5.31 >
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