[学会レポート]日本循環器学会2009
(2009年3月20〜22日 大阪にて)
編集部が選ぶ注目トライアル
Late-Breaking Clinical Trials
jcs2009

3月20〜22日の3日間,大阪の国際会議場および周辺の2会場にて,第73回日本循環器学会総会・学術集会(JCS2009)が開催された。

注目のLate Breaking Clinical Trials(LBCT)は,最新の臨床試験の結果が発表されるセッション。26題の応募のなかから,日本人を対象としたものを中心に12題が厳選された。

ここではとくに臨床医の関心が高いと思われる試験を取り上げ,その発表概要を紹介する。

<Late-Breaking Clinical Trials II>
QUEST Qualification of Efficacy and Safety in the Study of Tolvaptan in Cardiac Edema
心性浮腫に対するトルバプタンの有効性および安全性の評価(QUEST)

試験背景/目的 トルバプタン(tolvaptan)は,バソプレシンのV2受容体拮抗薬である。欧米では心不全入院患者を対象にEVEREST試験が行われ,標準治療にトルバプタンを追加しても長期予後の改善は認められないという結果が報告されている。

そこで,日本人での検討を行うため,利尿薬治療中にもかかわらず体液量増加をきたしている心不全入院患者を対象に,トルバプタン治療の有効性および安全性を検討するプラセボ対照ランダム化二重盲検試験が行われた。

3月22日のJCS2009 LBCT IIにおいて松崎徳氏(山口大学)がこの試験の結果を発表した。

一次エンドポイントは,ベースラインからの体重変化。二次エンドポイントは,下肢の浮腫,肺うっ血,頸静脈怒張,肝腫脹。

試験プロトコール 日本国内の39施設が参加。対象患者基準は,1) 20〜85歳,2) うっ血性心不全による入院患者,3) 利尿薬治療中(フロセミド1日40mg以上またはそれと同等のループ利尿薬治療,ループ利尿薬+サイアザイド系利尿薬の併用,またはループ利尿薬+アルドステロン拮抗薬の併用),4) 体液量増加の兆候(頸静脈怒張,下肢の浮腫,肺うっ血など)。

登録された110例をトルバプタン群(53例),プラセボ群(57例)にランダム割付けした。トルバプタン群には,トルバプタン15mg 1日1回を既に投与されている利尿薬に上乗せし,7日間投与した。

試験結果 平均年齢はトルバプタン群71.3歳,プラセボ群71.0歳,男性は66.0%,68.4%,体重は60.9kg,56.8kg,心肺比率は60.5%,63.1%,左室駆出率は44.4%,45.8%で,いずれも有意な群間差はみられなかった。

トルバプタン群におけるベースラインから1週間後までの体重変化(一次エンドポイント)は−1.54kgで,プラセボ群との有意な差がみとめられた(P<0.0001)。二次エンドポイントの頸静脈怒張,および肝腫脹についても,トルバプタン群において有意な改善がみとめられた(ともにP=0.03)。下肢の浮腫,および肺うっ血については,有意差はみられなかった。

ベースラインから1週間後までの尿量,および水分摂取量の変化は,いずれもトルバプタン群のほうがプラセボ群よりも大きかった。ベースラインからの血清電解質の濃度の変化については,トルバプタン群で血中ナトリウム濃度の増加がみられたが,正常範囲内であった。血中カリウム濃度は両群とも変化しなかった。トルバプタン群でプラセボ群よりも多くみられた有害事象は,便秘,悪心,倦怠感,口渇,頻尿。

崎氏はQUEST試験について,「トルバプタンが,標準的な利尿薬との併用においても,電解質や血圧に異常をきたすことなく安全に心性浮腫を改善できることを証明した」と述べた。「今回は入院患者を対象に1週間追跡した結果であり,長期の予後改善作用はわからない。外来患者に2日に1回〜1週間に数回の頻度で経口投与したときの症状コントロールの可能性や,急性増悪の抑制効果についても検討したい」と展望も語った。

コメントスピーカーの和泉徹氏(北里大学)は,「塩分と水の恩恵を受けている日本人で利尿薬をどう使うかということは,非常に重要な問題」と前置きし,「バソプレシンのV2受容体拮抗薬であるトルバプタンを用いた今回のQUEST試験は,日本人において水分貯留のコントロール効果を示した点で評価できる」と述べた。