3月14日〜16日,アトランタ(米国)において,米国心臓病学会(ACC)の学術集会,およびインターベンション領域を対象にしたI2 Summitが開催された。本学会は心血管領域の最重要学会の一つであり,毎年,世界100ヵ国以上の専門家が参加している。3日間にわたり,臨床教育から,最先端の臨床知見やテクノロジーにおよぶ幅広いセッションが行われた。
なかでも,“Late-Breaking Clinical Trials(LBCT)”は,初めて臨床試験の結果が発表される注目のセッションである。ここでは,とくに臨床医の関心が高いと思われる5試験を取り上げ,その発表概要を紹介する。
ACCORD Blood Pressure Trial |
Effects of Intensive Blood Pressure Control on Cardiovascular Events in Type 2 Diabetes Mellitus: the Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes(ACCORD)Blood Pressure Trial |
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試験背景/目的 ACCORD試験は,2型糖尿病患者を対象に,心血管疾患を抑制する治療法を検討した3つの試験(糖尿病試験,血圧試験,脂質試験)で構成されるプログラムである。
糖尿病試験は,心血管イベント抑制効果を,HbA1c値を正常範囲に低下させる厳格療法(目標HbA1c値<6.0%)と標準療法(目標HbA1c値7.0〜7.9%)で比較したが,厳格療法は標準療法に比べ,心血管イベントを抑制せず,死亡率を上昇させたため,早期中止となった(N Engl J Med. 2008;358:2545-59.[PubMed] )。
ACCORD Blood Pressure Trialでは,厳格降圧療法が2型糖尿病患者の心血管疾患のリスクを抑制するかを検討した。
糖尿病は心血管疾患の危険因子であり,収縮期血圧(SBP)の上昇によりリスクが高まるため,JNC 7ではSBP≧130mmHgの糖尿病患者には降圧治療が推奨されている(JSH 2009も同様)。しかし,これまで,その有用性を支持するエビデンスはなかった。
そこで,2型糖尿病患者を対象とし,降圧目標をSBP≦120mmHgに設定した治療(厳格療法)と≦140mmHgに設定した治療(標準療法)の心血管イベント抑制効果を検討する,多施設共同,ランダム化試験,ACCORD Blood Pressureが行われた。
一次エンドポイントは主要心血管イベント(非致死性心筋梗塞[MI],非致死性脳卒中,心血管死)。二次エンドポイントは,一次エンドポイント+血行再建術または慢性心不全による入院,致死性冠動脈疾患+非致死性MIまたは不安定狭心症,非致死性MI+致死性または非致死性脳卒中,非致死性MI+全死亡+心血管死+入院または心不全死。
3月14日のLate-Breaking Clinical Trials Iにおいて,William C. Cushman氏(Veterans Affairs Medical Center, Memphis)がこの試験の結果を発表した。また,同日,New England Journal of Medicine誌の電子版に論文が掲載された。
試験プロトコール ACCORD試験には米国とカナダの77施設が参加。対象は,2型糖尿病罹病歴3ヵ月以上,HbA1c値7.5%〜11%,心血管疾患高リスク(臨床疾患,無症候性疾患,または二つ以上の危険因子),40歳以上(心血管疾患既往あり),55歳以上(心血管疾患既往は問わず),SBP≧130mmHg,尿蛋白<1.0mg/24h相当,血清クレアチニン値≦1.5mg/dLの4,733例。
厳格療法群(SBP≦120mmHgへの降圧を目標とする)と標準療法群(SBP≦140mmHgへの降圧を目標とする)にランダム割付けし,それぞれ目標血圧を目指し,降圧薬を投与した。定期的な来院時に血圧を測定し,降圧薬の投与を調整した。
厳格療法群(2,362例)では,2種類の降圧薬(利尿薬にACE阻害薬,ARBまたはβ遮断薬を併用)を投与し,降圧が十分でない場合に他の降圧薬を追加した。標準療法群(2,371例)では,SBP≧160mmHgまたは,2回続けてSBP≧140mmHgの場合に降圧治療を厳格した。
試験結果 患者背景は,平均年齢62歳,女性48%,心血管イベント既往34%,白人61%,黒人24%,ヒスパニック系7%,血圧139/76mmHg,降圧治療を受けている例87%,血清クレアチニン値0.9mg/dL,推算糸球体ろ過量92mL/min/1.73m²,糖尿病罹病期間10年,HbA1c 8.3%,BMI 32であった。
一次エンドポイントの発生は,厳格療法群で208例(1.87%),標準療法群で237例(2.09%)であり,両群で差がなかった(ハザード比 0.88,95%信頼区間 0.73–1.06,P=0.20)。二次エンドポイントのうち,脳卒中の発生率は標準療法群に比べ,厳格療法群で有意に低下していた(0.32% vs 0.53%,P=0.01)。
重篤な有害事象は厳格療法群で有意に少なかった(1.3% vs 3.3% ,P<0.0001)。
この結果についてCushman氏は「2型糖尿病患者における厳格降圧治療の心血管イベント抑制効果は,標準降圧療法と差がないことが示されました」と結論。しかし「厳格降圧療法は脳卒中を抑制しており,この見地からは120mmHg以下への降圧は有用であるといえる」との見解を示した。
パネリストのElijah Saunders氏は,「疫学的データからは,正常血圧は120/80mmHg未満であることが示されているにも関わらず,ACCORD Blood Pressure Trialでは予想に反して,厳格な降圧のベネフィットが示されませんでした。今後,どのような患者で厳格な降圧が有用であるのか,この試験の結果を徹底的に再検討する必要がある」と指摘した。
< 2010.7.01 >
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No.17 – 2010: 「「アマリール®」が小児2型糖尿病患者にも使用可能に」ほか
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