[学会情報]米国心臓病学会(ACC)学術集会2010
(2010年3月14日〜16日 in アトランタ)
編集部が選ぶ注目トライアル 
Late-Breaking Clinical Trials I

3月14日〜16日,アトランタ(米国)において,米国心臓病学会(ACC)の学術集会,およびインターベンション領域を対象にしたI2 Summitが開催された。本学会は心血管領域の最重要学会の一つであり,毎年,世界100ヵ国以上の専門家が参加している。3日間にわたり,臨床教育から,最先端の臨床知見やテクノロジーにおよぶ幅広いセッションが行われた。

なかでも,“Late-Breaking Clinical Trials(LBCT)”は,初めて臨床試験の結果が発表される注目のセッションである。ここでは,とくに臨床医の関心が高いと思われる5試験を取り上げ,その発表概要を紹介する。

<Late-Breaking Clinical Trials I>
ACCORD Lipid Trial Effects of Combination Lipid Therapy on Cardiovascular Events in Type 2 Diabetes Mellitus: The Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes (ACCORD) Lipid Trial
2型糖尿病患者における脂質治療の心血管イベント予防効果

試験背景/目的 ACCORD試験は,2型糖尿病患者を対象に,心血管疾患を抑制する治療法を検討した3つの試験(糖尿病試験,血圧試験,脂質試験)で構成されるプログラムである。

糖尿病試験は,心血管イベント抑制効果を,HbA1c値を正常範囲に低下させる厳格療法(目標HbA1c値<6.0%)と標準療法(目標HbA1c値7.0〜7.9%)で比較したが,厳格療法は標準療法に比べ,心血管イベントを抑制せず,死亡率を上昇させたため,早期中止となった(N Engl J Med. 2008;358:2545-59.[PubMed] )。

ACCORD Lipid Trialでは,脂質治療が2型糖尿病患者の心血管疾患のリスクを抑制するかを検討した。

2型糖尿病患者の心血管疾患の予防には,スタチンが用いられているが,その有効性は十分とはいえない。一方,フィブラートについては,VA-HIT試験で,2型糖尿病患者における冠動脈疾患リスクを抑制することが示され,FIELD試験では冠動脈疾患リスクの低下は認められなかったが,post-hoc解析の結果,トリグリセリド(TG)レベル上昇例や,HDL-コレステロール(HDL-C)レベル低下例に対する有用性が示されている。

そこで,心血管疾患リスクの高い2型糖尿病患者を対象とし,スタチン単独療法と,スタチン+フィブラート併用療法を比較する,二重盲検ランダム化比較試験,ACCORD Lipid Trialが実施された。

一次エンドポイントは主要心血管イベント(非致死性心筋梗塞[MI],非致死性脳卒中,心血管死)。二次エンドポイントは,一次エンドポイント+血行再建術または慢性心不全による入院,致死性冠動脈疾患+非致死性MIまたは不安定狭心症,非致死性MI+致死性または非致死性脳卒中,非致死性MI+全死亡+心血管死+入院または心不全死。

3月14日のLate-Breaking Clinical Trials Iにおいて,Henry C. Ginsberg氏(College of Physicians & Surgeons, Columbia University, New York)がこの試験の結果を発表した。また,同日,New England Journal of Medicine誌の電子版に論文が掲載された。

試験プロトコール ACCORD試験には米国とカナダの77施設が参加。対象は罹病歴3ヵ月以上,フェノフィブラートとシンバスタチンの投与が可能で,心血管イベントの危険因子を二つ以上有する2型糖尿病患者5,518例。HbA1c値7.5〜11%;LDL-コレステロール(LDL-C) 60〜180mg/dL;HDL-C <55mg/dL(女性,黒人),<50mg/dL(その他);TG<750mg/dL(非治療例),<400mg/dL(治療例)。

試験結果 患者背景は,平均年齢62歳,女性31%,白人68%,黒人15%,ヒスパニック系7%,心血管イベント既往37%,糖尿病罹病期間9年,HbA1c8.3%,総コレステロール(TC)値175mg/dL,LDL-C値101mg/dL,HDL-C値38mg/dL,TG値162mg/dL,血圧134/74mmHg,血清クレアチニン値0.9mg/dL,喫煙15%,スタチン60%であった。

追跡期間中の有害事象は,単独群と併用群で差はなかった。

一次エンドポイントの発生は,単独群で2.24%(291例),併用群で2.41%(310例)であり,両群で差は認められなかった(ハザード比 0.92,95%信頼区間 0.79–1.08,P=0.32)。二次エンドポイントの発生も,両群で差は認められなかった。

サブグループ解析では,性別のみ交互作用がみられ,男性の両群での一次エンドポイント発生率はそれぞれ13.3%,11.2%,女性ではそれぞれ6.6%,9.1%であった(交互作用 P=0.01)。また,TG高値例(≧2.30mmol/L)とHDL-C低値例(≦0.88mmol/L)に交互作用の有意傾向がみられた(交互作用 P=0.057)。

この結果についてGinsberg氏は,「ほとんどの2型糖尿病患者においてはHDL-C値とTG値は正常の範囲内にあり,シンバスタチンへフェノフィブラートを追加しても,心血管イベントの抑制効果につながらないことが示されました」と結論しながらも,「サブグループ解析では,性別や脂質異常症によって併用療法への反応性にばらつきがあることが示唆されました」とさらなる検討の必要性を訴えた。

パネリストのPaul D. Thompson氏は,「フェノフィブラートは,通常,TG高値例の治療に用いられます。この試験での平均TG値は162mg/dLですので,フェノフィブラートの追加による有効性が示されなかったのは,驚くべきことではありません」とコメントした。「ACCORD Lipid Trialは,フェノフィブラートそのものの有効性,またはスタチンに忍容性のない患者におけるフェノフィブラートの有効性を検討した試験ではないことを,明確に認識しなければなりません」と強調した。