3月14日〜16日,アトランタ(米国)において,米国心臓病学会(ACC)の学術集会,およびインターベンション領域を対象にしたI2 Summitが開催された。本学会は心血管領域の最重要学会の一つであり,毎年,世界100ヵ国以上の専門家が参加している。3日間にわたり,臨床教育から,最先端の臨床知見やテクノロジーにおよぶ幅広いセッションが行われた。
なかでも,“Late-Breaking Clinical Trials(LBCT)”は,初めて臨床試験の結果が発表される注目のセッションである。ここでは,とくに臨床医の関心が高いと思われる5試験を取り上げ,その発表概要を紹介する。
NAVIGATOR | Effects of Intensive Blood Pressure Control on Cardiovascular Events in Type 2 Diabetes Mellitus: NAVIGATOR Trial |
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試験背景/目的 耐糖能異常(IGT)患者では2型糖尿病と心血管疾患の発症リスクが高く,その予防が重要である。これまで,糖尿病患者におけるライフスタイルの改善,ARBやACE阻害薬などの有効性が示されてきたが,IGT患者を対象とした検討は行われていない。
そこで,心血管疾患リスクを有するまたは心血管疾患を合併したIGT患者を対象とし,ライフスタイルの改善+速効型インスリン分泌促進薬ナテグリニドまたはARBの,糖尿病および心血管イベント抑制効果を検討する,二重盲検ランダム化比較試験NAVIGATOR試験が行われた。
一次エンドポイントは糖尿病の発症,extended心血管アウトカム(心血管死+非致死性心筋梗塞[MI]+非致死性脳卒中+心不全による入院+血行再建術+不安定狭心症による入院),core心血管アウトカム(心血管死+非致死性MI+非致死性脳卒中+心不全による入院)。
3月14日のLate-Breaking Clinical Trials Iにおいて,Robert M. Califf氏(Duke Clinical Research Institute,Durham,NC)がこの試験の結果を発表した。また,同日,New England Journal of Medicine誌の電子版に論文が掲載された。
試験プロトコール 40ヵ国の806施設が参加。対象は一つ以上の心血管リスクを有するまたは心血管疾患を合併するIGT患者9,306例。
すべての患者にライフスタイル改善プログラムが実施された。
NAVIGATOR試験は2×2ファクトリアルデザインで,ナテグリニド+バルサルタン群(2,316例),ナテグリニド+プラセボ群(2,319例),バルサルタン+プラセボ群(2,315例),プラセボ群(2,346例)にランダムに割付け。ナテグリニドは食前に60mgを1日3回投与し,バルサルタンは160mgを1日1回投与した。
試験結果
●ナテグリニド試験
ナテグリニド群4,645例(ナテグリニド+バルサルタン群およびナテグリニド+プラセボ群)とプラセボ群4,661例(バルサルタン+プラセボ群とプラセボ群)の患者背景に差はみられなかった。
一次エンドポイントのうち,糖尿病発症率は両群で差がなかった(P=0.05)。extended心血管アウトカムとcore心血管アウトカムの発症率も両群で差は認められなかった(それぞれP=0.16,P=0.43)。
低血糖の発症はナテグリニド群よりもプラセボ群のほうが少なかったが(19.6% vs 11.3%,P<0. 001),それ以外の有害事象では差はなかった。
●バルサルタン試験
バルサルタン群4,631例(ナテグリニド+バルサルタン群およびバルサルタン+プラセボ群)とプラセボ群4,675例(ナテグリニド+プラセボ群およびプラセボ群)の患者背景に差はなかった。
糖尿病発症率は,プラセボ群に比べバルサルタン群で有意に低かった(36.8 vs 33.1%,P<0.001)。
extended心血管アウトカムとcore心血管アウトカムの発症率は両群で差は認められなかった(それぞれP=0.43,P=0.85)。また,全死亡と心血管死の発生率も両群で差がなかった(それぞれP=0.17,P=0.52)。
低血圧,高血圧および低カリウム血症の発生率はプラセボ群よりもバルサルタン群で有意に高かった(すべてP<0.001)。
この結果についてCaliff氏は「バルサルタンは心血管疾患高リスクまたは心血管疾患合併IGT患者において糖尿病の発症を抑制するものの,心血管アウトカムを減少させませんでした。またナテグリニドは糖尿病発症と心血管アウトカムのどちらも抑制しないことが示されました」と結論。「現在,肥満や糖尿病,またそれに伴う心血管疾患は劇的に増加しており,耐糖能に異常がある場合は,標準的な治療を行っていても糖尿病に進展する可能性があります。こうした症例では,ライフスタイルの改善が非常に重要です」と加え,さらに「今回の試験結果から,治療のリスクや有効性は,生物学的観点からだけでは正確に予測できないことが,再度,明らかになりました」とランダム化試験の重要性を強調した。
< 2010.7.01 >
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THERAPEUTIC RESEARCH vol.31 no.6 2010
< 2010.6.28 >
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No.17 – 2010: 「「アマリール®」が小児2型糖尿病患者にも使用可能に」ほか
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[トピックス] 脳卒中の予防啓発活動の重要性
< 2010.5.31 >
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