[学会レポート]日本循環器学会2010
(2010年3月6日 京都にて)
Late-Breaking Clinical Trials 2
ADVANCED-J 結果概要
京都清水寺の梅

2010年3月6日,ADVANCED-J(Amlodipine versus Angiotensin II Receptor Blocker; Control of Blood Pressure Evaluation Trial in Diabetics)の最終解析の 結果が日本循環器学会総会・学術集会のLate-Breaking Clinical Trials 2にて発表された。アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)の通常用量で降圧不十分な糖尿病合併高血圧患者では,ARBを増量するよりもCa拮抗薬を併用したほうが起床後の 家庭血圧などが有意に低下することが示された。さらに,頚動脈内膜中膜厚(IMT)といった動脈硬化進行度の指標の改善,推定糸球体ろ過量(eGFR)の維持という点においてもCa拮抗薬併用のほうが好ましいというデータも示され,糖尿病合併例においても降圧そのものが臓器保護につながる可能性を強く示唆する結果となった。

<Late-Breaking Clinical Trials 02>
ADVANCED-J Amlodipine versus Angiotensin II Receptor Blocker; Control of Blood Pressure Evaluation Trial in Diabetics
糖尿病合併高血圧患者におけるARB+Ca拮抗薬併用とARB増量の比較

代田浩之氏
代田浩之氏
(順天堂大学医学部循環器内科)

試験背景/目的 2型糖尿病と高血圧の合併は心血管疾患のリスクを大きく増加させることが知られており,ガイドラインではより積極的な降圧治療を推奨している。現在わが国では,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は糖尿病合併高血圧での第一選択薬の一つとして推奨されているが,通常用量のARBで降圧目標(<130/80mmHg)を達成するのは困難な患者も多い。このような患者では,ARBをさらに増量すべきか,それともその他の降圧薬を併用すべきかについては明らかにされていない。

ADVANCED-J試験は,通常用量のARBでは降圧目標を達成できなかった糖尿病合併高血圧患者を対象に,ARB増量群とARB+Ca拮抗薬併用群の降圧効果を3年間にわたり追跡・比較した,多施設PROBE試験(prospective, randomized, open label, blinded-endpoint study)である。

一次エンドポイントは,1年後の起床後家庭血圧の推移。

この最終解析の結果は,3月6日,Late-Breaking Clinical Trials 2にて順天堂大学医学部循環器内科の代田浩之氏によって発表された。

試験プロトコール 20歳以上の糖尿病合併高血圧患者で,通常用量ARBを8週間以上投与しても起床後の家庭血圧≧130/80mmHgにとどまった患者を対象とした(ARBの種類は問わず。Ca拮抗薬やACE阻害薬を除く降圧薬の併用は可)。ただし診察室血圧≧180/110mmHgの患者や二次性高血圧,重篤な肝障害,重篤な腎障害などは除外。

患者はARB増量群(承認された最高用量まで増量,132例),Ca拮抗薬併用群(通常量ARBにアムロジピン5mg/日を併用,131例)に割付けられた。降圧目標は朝の家庭血圧<125/80mmHgとし,目標に達しない場合は試験開始8週間後よりその他の降圧薬の併用を許可(ただし,ARB増量群でのCa拮抗薬の併用,Ca拮抗薬併用群でのレニン・アンジオテンシン系阻害薬の併用は禁止)。なお,試験開始1年後までの家庭血圧測定値はすべて自動データ送信システムにて集計された。

試験結果 患者背景は,平均年齢ARB増量群65.1±9.4歳,Ca拮抗薬併用群65.1±10.0歳,男性64.4%,58.8%,BMI 25.1±3.4 kg/m2,25.4±4.1 kg/m2,推定高血圧罹患期間6.7±7.9年,6.8±7.3年,推定糖尿病罹患期間6.0±5.9年,8.1±7.4年,脂質異常症43.2%,47.3%である。既往症は,脳血管障害9.9%,8.4%,冠動脈心疾患15.9%,15.3%,心不全1.5%,2.3%,糖尿病腎症18.9%,22.1%,糖尿病性網膜症24.2%,22.9%,糖尿病性神経障害12.1%,15.3%。

試験薬以外の降圧薬の併用率は,ARB増量群では,1年後59.8%(α遮断薬37.9%,β遮断薬23.5%,利尿薬13.6%ほか),3年後68.2%(44.7%,29.5%, 25.8%)であり,Ca拮抗薬併用群では,1年後32.1%(24.4%,13.7%, 3.1%),3年後41.2%(30.5%,17.6%, 9.2%)であった。

一次エンドポイントである起床後の家庭血圧は,ベースライン時には両群で同等であったが(158.2/ 82.5 mmHg,157.3/84.4 mmHg),3年間を通じてCa拮抗薬併用群(1年後139.6/74.6 mmHg→2年後134.7/72.2 mmHg→3年後132.8/72.3 mmHg)がARB増量群(149.1/78.1 mmHg→143.3/76.8 mmHg→139.6/76.3 mmHg)にくらべ有意に低かった(収縮期血圧の群間比較:1年後P =0.001,2年後P =0.007,3年後P =0.008,拡張期血圧の群間比較:それぞれP =0.010,P =0.023,P =0.033)。

二次エンドポイントのおもな結果は以下のとおり。

就寝前家庭血圧および診察室血圧についても3年間を通じてCa拮抗薬併用群はARB増量群より低かった。降圧目標(家庭血圧<125/80 mmHg,診察室血圧<130/80 mmHg)の達成率もCa拮抗薬群のほうが高かったが,起床後20.5%,就寝前43.9%,診察室37.5%にとどまった(ARB増量群は14.9%,27.9%,29.2%)。

平均IMTについては,ARB増量群は3年間でほぼ変化がなかったのに対し(ベースライン時0.864 mm→1年後0.886 mm→2年後0.922 mm→3年後0.891 mm),Ca拮抗薬群では3年間継続して低下した(0.879 mm →0.872 mm→0.840 mm→0.796 mm)(反復測定ANCOVA P =0.018)。

尿中アルブミン排泄量は両群ともに変動せず。血清クレアチニンは両群ともに上昇傾向にあったが,群間差は認められなかった。一方,eGFRは1年後,2年後,3年後ともにARB群でのみベースラインからの有意な低下を認め,3年後ではCa拮抗薬併用群より有意に低下していた(ARB群 −7.55 mL/分/1.73 m2,Ca拮抗薬併用群−1.59 mL/分/1.73 m2P =0.009)。

また,上腕-足首脈波伝搬速度(baPWV)についてはARB増量群では1年後,2年後,3年後ともにベースラインからの有意な変化がみられなかったのに対し(−3 mm/秒,+19 mm/秒,−68 mm/秒),Ca拮抗薬併用群では有意な低下がみられ(−118 mm/秒,−141 mm/秒,−99 mm/秒),1年後,2年後はARB増量群よりも有意に低下した(P =0.006,P=0.001)。このほか,高感度C反応性蛋白(hs-CRP)や脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),HbA1c,インスリン抵抗性指標HOMA-IRには両群ともに変動はほとんど示されず,群間差も認められなかった。

なお,有害事象の発生率は高カリウム血症や肝機能障害を含め両群間に有意差はなかった。

ADVANCED-Jの結果から,糖尿病合併高血圧患者では,第一選択薬であるARBで降圧不十分な場合はCa拮抗薬を併用し速やかな降圧を図ることの重要性が示された。発表者の代田浩之氏は「起床後の家庭血圧の降圧目標達成率はCa拮抗薬併用群のほうが高いものの,十分ではないため,その他の薬剤との併用療法を含め,より厳格な降圧治療を行う必要があるだろう」と結んだ。