[学会レポート]日本循環器学会2010
(2010年3月7日 京都にて)
Late-Breaking Clinical Trials 3
J-RHYTHM II結果概要
LBCT03発表会場

2010年3月7日,日本心電学会が主導して行ったJ-RHYTHM IIの結果が日本循環器学会総会・学術集会のLate Breaking Clinical Trials 3で発表になった。

J-RHYTHM IIは,高血圧を合併する発作性心房細動(PAF)患者において,降圧薬としてレニン・アンジオテンシン(RA)系抑制薬を用いることによって,他の降圧薬よりもよりPAFの回数を減少できるとの仮説に基づいて行われた試験であるが,1年間の追跡の結果,ARB(カンデサルタン)群とCa拮抗薬(アムロジピン)群の間に差を見いだすことはできなかった。両群とも同等にAF日数を減少させたことから,高血圧合併PAF症例においては,降圧そのものが有効であることが示唆された。

<Late-Breaking Clinical Trials 03>
J-RHYTHM II A Randomized Study of Angiotensin II Type 1 Receptor Blocker vs Dihydropiridine Ca Antagonist for Treatment of Paroxysmal Atrial Fibrillation in Patients with Hypertension
高血圧合併発作性心房細動患者に対するARBとCa拮抗薬の比較

山下武志氏
山下武志氏
(心臓血管研究所)

試験背景/目的 J-RHYTHM IIは,心房の基質に働きかけるRA系抑制薬による「アップストリームアプローチ」が,効果的で安全な抗不整脈治療となりうるとの仮説の元に行われた試験である。

過去1年間に,心房細動例へのARBの有効性をプラセボ対照で検討した臨床試験が2件,相次いで発表されたが(GISSI-AF(循環器トライアルデータベースACTIVE-I),いずれもARBの有効性を示せていない。また,高血圧患者を対象として行われた大規模臨床試験ALLHATの昨年発表されたサブ解析(循環器トライアルデータベース)においても,降圧レベルが同等であったACE阻害薬,Ca拮抗薬,利尿薬の各群で心房細動の抑制に差は見いだせていない。

J-RHYTHM IIは上記の試験の対象と異なり,臨床でよくみられる,頻回のPAFを繰り返す高血圧患者を対象として行われた。試験薬はARBカンデサルタン,対照薬はCa拮抗薬アムロジピンである。

一次エンドポイントは割付け前の観察期間1ヵ月間と割付け後1年の最終1ヵ月間における伝送心電図記録(TTM)上の発作日数の差。

この結果は,3月7日,Late-Breaking Clinical Trials 3にて心臓血管研究所の山下武志氏によって発表された。

試験プロトコール 登録基準は過去6ヵ月以内のPAFと高血圧(収縮期血圧:140mmHg以上かつ/あるいは拡張期血圧90mmHg以上)を有する患者。持続性心房細動例,永続性心房細動例は除外した。

患者は登録後1ヵ月間の観察期間中に,TTMのほか心エコー検査,心房細動QOL評価(AFQLQ)を受けた。2006年9月〜2008年8月に326例が登録され,観察期間中に8例が脱落,318例をARB群(カンデサルタン8–12mg/日)158例とCa拮抗薬群(アムロジピン2.5–5mg/日)160例にランダムに割り付け,登録患者から毎日TTMを入手した。

試験結果 患者背景はほぼ同等で,男性の比率69%,平均年齢65–66歳。血圧(ARB群139.5/81 mmHg,Ca拮抗薬群140.7/82.5 mmHg),心拍数(70.9拍/分,69.5拍/分),降圧薬服用率(75.9%,77.5%),抗不整脈薬服用率(66.5%,74.4%),糖尿病有病率(9.5%,8.8%),脂質異常症有病率(29.7%,29.4%)は同等であった。有意差がみられたのは,左室収縮末期径(29.1 mm,30.3 mm,P=0.03)と左室駆出率(69.1%,66.2%,P=0.003)。

観察期間中のAF日数(P=0.116),症候性AFの日数(P=0.903)ともに両群で有意差はなかった。

追跡期間中の血圧は,収縮期血圧,拡張期血圧とも,Ca拮抗薬群で有意に低く推移した(P<0.0001)。

一次エンドポイントである追跡最終1ヵ月間の総AF日数は両群とも2日前後(P=0.512),症候性AF日数は両群とも1日前後(P=0.544)で有意な差はみられなかった。割付け前観察期1ヵ月間と最終1ヵ月の差も,両群で有意差はみられなかった。追跡期間中の月当たりの総AF日数は両群とも低下した。

両群に血圧低下度の違いがあったことから,Post-hoc解析として到達収縮期血圧で3つのグループ(126mmHg以下,126-139mmHg,139mmHg以上)に分けてAF日数の減少度を比較したが,いずれの血圧グループても両群には差はなく,同等に減少していた。

二次エンドポイントである慢性化(PAFから持続性心房細動への移行)については,ARB群で145例中13例(9%),Ca拮抗薬群で136例中24例(18%)で有意ではないものの,ARB群で抑制する傾向がみられた(P=0.08)。

以上から,高血圧を合併したPAF患者を対象としたJ-RHYTHM IIでは,Ca拮抗薬群のほうがARB群よりも降圧されており,この治療背景のもとAF日数,AFの慢性化,QOLに両群間で有意差を見いだすことができなかった。いずれの降圧薬治療もPAFの頻度を低下させることを示した。

山下氏は,討論のなかでPAFから持続性心房細動に移行する,慢性化率は「これまで年間5%と考えられてきたが,この試験の結果から,年間10%から20%であることが示された意義は大きい」とした。また,慢性化の抑制に関してはARBがCa拮抗薬よりもよい傾向を示したが,「慢性化予防は二次エンドポイントであり,統計学的に有意ではない」とし,RA系抑制薬の心房細動慢性化予防効果については,結論を見いだすことはできないと述べた。