[学会情報]米国心臓協会学術集会(AHA)2008
(2008年11月8日〜12日 in ニューオリンズ)
編集部が選ぶ注目トライアル
Late-Breaking Clinical Trials
AHA2008

11月8〜12日の5日間,米国,ルイジアナ州のニューオリンズにおいて,米国心臓協会(AHA)の学術集会が開催された。11月7日午後の時点で21,448名の登録があり,うち8,096名が海外からの参加である。プログラムに含まれるアブストラクトは4,000以上にのぼる。循環器領域としてはまさに世界最高峰の学術集会であり,毎年その後の研究や臨床に多大な影響を及ぼす研究がいくつも報告されている。

そのなかでも,“Late-Breaking Clinical Trials (LBCT)”は循環器専門家がとくに注目する臨床研究が発表されるスペシャルセッションで,関連するテーマごとに9日から1日4トライアル,全16トライアルが発表された。プログラム委員長のGordon F. Tomaselli氏によれば,今回は60件のsubmitのなかから選ばれたものである。

ここでは,とくに日本の臨床医に関心が高いと思われるトライアルを毎日1トライアル取り上げ,その発表概要を紹介してきた。今回は最終回である。

<Late-Breaking Clinical Trials IV>
APPROACH Effect of Rosiglitazone Versus Glipizide on Progression of Coronary Atherosclerosis in Patients with Type 2 Diabetes and Coronary Artery Disease
冠動脈疾患をもつ2型糖尿病患者における冠動脈硬化進展抑制効果—ロシグリタゾンvsグリピジド

Richard W. Nesto, MD
Richard W. Nesto, MD
(Lahey Clinic Medical Center, Burlington, USA)

【11月12日・ニューオリンズ】
試験背景/目的 糖尿病は心血管イベントや動脈硬化の強力なリスク因子であり,いまもなお糖尿病患者の数は増加傾向にあることから,この患者群における抗動脈硬化治療は重要な課題となっている。そこで,糖尿病治療薬として,ここ10年以内に登場したチアゾリジン系薬剤(TZD)と40年以上も使用されているスルフォニル尿素(SU)薬のどちらがアテローム進展抑制作用を有するかを検討するため,APPROACH試験が企画された。

TZDはインスリン抵抗性を改善することで血糖を低下させるだけでなく,血圧,炎症性マーカーを低下させ,脂質代謝異常,内皮機能,頸動脈内膜-中膜厚(IMT)を改善させることが知られている。APPROACHは,TZDのこのような作用が冠動脈硬化の進展抑制に働くのではないかという仮説に基づき実施され,その結果が,11月12日のLate-Breaking Clinical Trials IVにおいて,Richard W. Nesto氏(Lahey Clinic Medical Center)によって発表された。

一次エンドポイントはアテローム容積(%)の変化。

試験プロトコール APPROACH試験の参加施設は19ヵ国,92施設。対象は血管造影/PCIの適用となる2型糖尿病(HbA1c 6.6〜8.5%,経口薬の使用は2剤まで)症例で,インターベンションが行われていない冠動脈血管にプラークが存在し,10〜50%の狭窄が認められる場合に限定した。CABG歴,弁膜症,駆出率<40%,うっ血性心不全,腎疾患,肝疾患,血圧コントロール不良の症例は除外され,最終的に症例数は672例となった。

対象者はロシグリタゾン群(8mg/日まで漸増投与)とグリピジド群(15mg/日まで漸増投与)に割付けられ,18ヵ月間追跡された。血管の性状評価にはIVUSが用いられた。

試験結果 患者背景は平均年齢61歳,男性68%,BMI 30,HbA1c 7.2%,LDL-C 90mg/dL,HDL-C 43mg/dL,TG 161mg/dL。血圧(ロシグリタゾン群128/75mmHg,グリピジド群131/76mmHg),クレアチニン(1.02 mg/dL,0.98 mg/dL)のみ群間に差があった。

解析は18ヵ月後のIVUS評価が可能だった462例(ロシグリタゾン群233例,グリピジド群229例)にて行われた。先行の研究結果同様,ロシグリタゾンではグリピジドとの比較において,拡張期血圧の低下,HDL-Cの増加,抗炎症作用(hsCRP低下)に優れていた。

しかし,一次エンドポイントのアテローム容積(%)の変化は,ロシグリタゾン群で−0.21%,グリピジド群で+0.43%となったものの,有意な差ではなかった(群間差 −0.64%,95%CI −1.46〜0.17,P=0.12)。

二次エンドポイントのnormalized総アテローム容積については,ロシグリタゾン群で−3.9mm3,グリピジド群で+1.2mm3となり,有意な群間差が認められた(−5.12 mm3,95%CI −9.98〜−0.26,P=0.04)。また,もっともアテローム退縮が大きかった10mmセグメントでの評価では,両剤とも総アテローム容積を有意に減少させたが,群間差はみられなかった。

サブグループ解析から,糖尿病罹病期間が長い患者で,ロシグリタゾンの効果がより期待できることが示唆された。

Nesto氏は「APPROACH試験は,先に行われたPERISCOPE試験(ピオグリタゾン vs グリメピリド)の結果を支持する結果である」と結論した。PERISCOPE試験ではAPPROACH試験とちがい,有意差が得られていた点について「2試験を比較すると,ピオグリタゾンとロシグリタゾンによるアテローム容積の退縮度は同等だが,グリメピリドとグリピジドの効果に差があるようだ」と説明した。

日本人の2型糖尿病患者におけるアスピリンの動脈硬化性疾患一次予防効果に関する研究

糖尿病患者における薬剤溶出ステントとベアメタルステントの比較: Mass-DAC登録研究

左室駆出率の保持された心不全患者におけるイルベサルタンの検討

冠動脈疾患をもつ2型糖尿病患者における冠動脈硬化進展抑制効果—ロシグリタゾンvsグリピジド