Poole-Wilson氏にAHA2008の会場で聞いた |
■I-PRESERVEの結果がHF-PEFやHF-REFに対する治療方針を変化させることはない■
心不全を検討した多くの臨床試験では,EF低下例,つまり収縮性心不全を対象として,ポジティブな結果が得られています。そこで,I-PRESERVE試験ではEFが保持されている心不全(HF-PEF)が対象にされました。この患者群では,これまで5試験が報告されていますが,おそらく,もっとも成功した試験は,私が試験の責任者を務め,β遮断薬を用いたSENIORS試験でしょう。これは全心不全患者を対象とした試験ですが,収縮機能の保持された患者においてもβ遮断薬の有用性が示されました。一方,ジギタリスを用いたDIG試験,ARBを用いたCHARM-preserved試験では試験薬の効果を示すことはできませんでした。しかし,PEP-CHF試験では,ACE阻害薬がこの患者群で効果的である可能性が示唆され,それに対し,私は肯定的にとらえていたため,I-PRESERVEの結果にとても興味をもっていました。
I-PRESERVE試験では,患者はよく治療されており,試験終了時には実に患者の7割にβ遮断薬,4割にACE阻害薬,1/4にスピロノラクトンが投与されていました。CIBIS III試験によって, ACE阻害薬とβ遮断薬のどちらを先行投与しても患者の予後に差が認められないことがわかっています。したがって,7割にβ遮断薬が投与され,さらにRAA系も十分に抑制されているところに,イルベサルタンを上乗せしても,その効果を確認することはできないと思います。
私が知りたいのは,「ACE阻害薬やβ遮断薬を服用していない患者でのARB群とプラセボ群の比較」ですが,本日のプレゼンテーションではそれは明らかにされませんでした。しかし,それを検証するのはほとんど不可能かもしれません。
I-PRESERVE試験の結果によってHF-PEFやHF-REFに対する私の治療方針が変化することはありません。しかし,この結果が一般のHF-PEFの治療に影響を与えてしまわないかという不安はあります。つまり医師がこの試験結果によって,RAS抑制は不要と誤って解釈し,ACE阻害薬や他のRAS抑制薬の投与を控えるかもしれないからです。これは大きな間違いです。この患者集団において,RAS抑制はたしかに有用なのです。
試験結果はニュートラルでしたから,早期のインパクトはないと思います。しかし,この試験のベネフィットが最大限に得られるのはこれからです。約4,000人ものHF-PEF患者の巨大なデータベースがえられたのです。たとえば,ある心不全患者が“large heart”になり,なぜ別の患者は“small heart”になるのかなど,新たな視点を与えてくれるでしょう。今回の結果によって新しい治療ターゲット,自然歴のより深い理解,必要とされる基礎研究など,ふたたびHF-PEFに人々の注目が集まることでしょう。新しい視点からの,さらなる研究が必要とされるのは確かです。
日本人の2型糖尿病患者におけるアスピリンの動脈硬化性疾患一次予防効果に関する研究
糖尿病患者における薬剤溶出ステントとベアメタルステントの比較: Mass-DAC登録研究
左室駆出率の保持された心不全患者におけるイルベサルタンの検討
冠動脈疾患をもつ2型糖尿病患者における冠動脈硬化進展抑制効果—ロシグリタゾンvsグリピジド
< 2010.7.01 >
〔最新号紹介〕
THERAPEUTIC RESEARCH vol.31 no.6 2010
< 2010.6.28 >
〔ニュースリリース〕
No.17 – 2010: 「「アマリール®」が小児2型糖尿病患者にも使用可能に」ほか
< 2010.6.24 >
〔トピックス〕
[トピックス] 脳卒中の予防啓発活動の重要性
< 2010.5.31 >
〔最新号紹介〕
THERAPEUTIC RESEARCH vol.31 no.5 2010
< 2010.5.11 >
〔最新号紹介〕
THERAPEUTIC RESEARCH vol.31 no.4 2010