8月29日から9月2日まで,バルセロナ(スペイン)において,欧州心臓病学会(ESC)の学術集会が開催されている。
世界中から発表演題が集まる心血管領域の最重要学会の一つであり,今年は最高記録(応募演題数 9,848)を更新した。最終的に約4,000演題が選ばれ,5日間にわたり,30のフロアに分かれて発表される予定。
なかでも,3日間にわたって行われる“Hot Line”は今後の臨床に影響を与えうるトライアルをとりあげたスペシャルセッションで,終了したばかりのトライアルの結果(一次エンドポイント)が,はじめて発表される場である。
ここでは,Hot Lineのなかからとくに日本の臨床医に関心が高いと思われるトライアルを毎日1トライアルずつ取り上げ,その発表概要を紹介する。
ISAR-TEST-4 | Randomized, non-inferiority trial of 3 limus agent-eluting stents with different polymer coatings |
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Comment: | William Wijns, M.D. | 安全性に関しては,さらに多くの患者で,より長期間の検討を行う必要がある |
Julinda Mehilli, MD (Deutsches Herzzentrum,ドイツ) |
【8月31日・バルセロナ】
試験背景/目的 冠動脈ステントにおいて課題とされてきた「ステント後再狭窄」は,薬剤溶出ステント(DES)の登場により著しく減少した。しかしながら,DESを留置した患者では,ベアメタルステント(BMS)を留置した患者に比べ,より長期にわたり血栓形成(ステント血栓症)のリスクにさらされることがわかってきた。その原因の一つに,薬剤をコーティングするポリマーの存在があげられている。薬剤放出後もポリマーが体内に留まることで,内皮の治癒過程を遅延したり,永続的な炎症反応を惹起していることが基礎研究から示されている。
そうしたなか,生分解性ポリマーを使用することで,従来のDESの薬剤溶出の技術はそのままに,遅発性ステント血栓症の問題を克服する試みが始まっている。すでに,生分解性ポリマーを用いたDES(BP-DES)は,6ヵ月間あるいは9か月間追跡した二つのランダム化比較試験(LEADERS,ISAR-TEST-3)で良好な結果を得ている。
そこで,さらに長期(1年間),かつ大規模な試験にて,BP-DESの有効性が永久的ポリマーを用いたDES(PP-DES)に劣らないことを検証するランダム化比較試験,ISAR-TEST-4が実施された。
8月31日のHot Line IIにおいて,Julinda Mehilli氏(Deutsches Herzzentrum)がこの試験の結果を発表した。また,同日,European Heart Journal誌の電子版に論文が掲載された。
一次エンドポイントは,1年後の主要有害心イベント(心死亡+標的血管の関与する心筋梗塞+標的病変部再血行再建術)である。
試験プロトコール ISAR-TEST-4試験はドイツの2施設で実施された。対象は虚血症状あるいは心筋虚血所見を呈し,未治療の冠動脈血管に50%以上の新規狭窄が認められる患者。18歳未満,心原性ショックの患者,病変部が左主幹部分枝部に位置する場合などは除外され,最終的に2,603例となった。
対象者はBP-DES群(ラパマイシン溶出生体分解ポリマーステント1,299例)とPP-DES群1,304例(ラパマイシン溶出永久ポリマーステント[Cypher]652例,エベロリムス溶出永久ポリマーステント[Xience]* 652例)に割付けられ,1年間追跡された。
*本邦未承認
2種のPP-DESを用いたことについて,Mehilli氏は「ラパマイシン溶出ステントはいまやゴールドスタンダードといえる。さらに,遅発性ステント血栓症に関して良いデータをもつエベロリムス溶出ステントを対照に加えた」と説明した。
試験結果 患者背景は平均年齢BP-DES群66.7歳,PP-DES群66.8歳,男性75%,77%。糖尿病患者は約30%,急性冠症候群患者は約40%。病変長は15mm,血管径は2.8mm。7割以上が複雑病変で,多枝病変の患者は8割を超える。
一次エンドポイント(1年後の主要有害心イベント)の発生率は,BP-DES群で13.8%,PP-DES群で14.4%。群間差は−0.6%(95%信頼区間[CI]上限値 1.8%)となり,あらかじめ設定された非劣性基準(+3%)を満たし,BP-DESのPP-DESに対する非劣性が証明された(P =0.005; リスク比[RR]0.96,95%CI 0.78-1.17)。
全死亡(BP-DES群4.7% vs PP-DES群 4.8%,P =0.90),全心筋梗塞(4.3% vs 4.1%,P =0.84),標的血管血行再建術(13.7% vs 13.9%,P =0.83)のいずれのイベントにおいても,群間に有意差はみられなかった。さらに,6–8ヵ月後におけるステント内晩期損失径,ステント留置セグメント内再狭窄発症率(in-segment binary restenosis)に関しても両群に有意差は認めなかった。
1年後のステント血栓症の発生は,BP-DES群で1.0%,PP-DES群で1.5%。BP-DESによりステント血栓症のリスクはPP-DES群に比して32%低下したが,この差は有意ではなかった(RR 0.68,95%CI 0.34–1.38,P =0.29)。Mehilli氏は「ステント血栓症に対する有用性を検証するには,さらに長期間の追跡が必要である。ISAR-TEST-4試験は,そうした検証を行うための方向性を示した」と述べた。ISARプロジェクトは,すでに2年間追跡する試験を企画している。
コメンテーターのAaron Kugelmass氏(デトロイト,米国)は,「ISAR-TEST-4試験は生分解性ポリマーステントを用いたものとしては,これまでにない大規模な試験であり,この新しい技術に関する今後の研究の礎となる結果である」と評価した。
< 2010.7.01 >
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