[トピックス] 第3回 日本循環器学会プレスセミナー
「循環器疾患の救急医療」

世界心臓連合は9月の最後の日曜日を「世界ハートの日」とし,心臓病と脳卒中の予防に対する情報を広めている。2009年は9月27日がこの日にあたり,同連合のメンバーや協力団体によりさまざまなイベントが行われる。これに先立ち,9月25日,「循環器疾患の救急医療」をテーマに,日本循環器学会による第3回プレスセミナーが開催された。高山守正氏(日本心臓血圧研究振興会附属榊原記念病院)が座長を務め,木村一雄氏(横浜市立大学附属市民総合医療センター),長尾健氏(駿河台日本大学病院),三田村秀雄氏(東京都済生会中央病院)が講演した。


2009年9月25日
急性冠症候群に対する治療システム改善の重要性

まず最初に,木村氏より「急性冠症候群への循環器救急医療の成果と課題」について講演があった。

心疾患は悪性新生物に次ぐ,日本人の死因第2位で,年間死亡者数は約18万人。このうち,救急医療が必要とされる急性心筋梗塞症(AMI)によるのは約43,000人。AMIの主な死因の一つは致死性不整脈の心室細動であるが,発症早期に的確な治療を行えば,入院中の死亡率は10%以下に低下し,社会復帰が可能となるという。この早期治療において重要な点は,1)致死的不整脈による心停止からの回避・蘇生,2)心機能の保持・回復である。

そのために,早期再灌流療法が重要となることから,2004年のACC/AHAのガイドラインでは,AMI患者においては,来院から90分以内の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施術を推奨している。2006年度に横浜市内の3次救急病院と市中病院(11施設)を調査した結果,3次救急病院の96%が来院後90分以内にPCI施術を行っていたが,市中病院では40%にも満たなかった。とくに,夜間では平均121分要していた。その背景について,「全体の9割以上の施設で常時,緊急カテーテル治療が可能な体制で診療しているが,6割以上の施設で,循環器内科の常勤医は5人以下。さらに,7割以上の常勤医が週1回以上のオンコールを担当し,その翌日はほとんどが通常勤務,という過酷な状況にあることがわかった」と説明した。

こうした現状に対し,木村氏は「救急隊によるトリアージの導入など,治療システムの改善が重要。また,今後も高度な救急医療体制を維持していくために,交代制勤務や集約化,増員などの十分な手当が必要である」と提言した。

心肺蘇生への市民参加の必要性

つぎに,長尾氏より「日本が世界を導く心肺蘇生の新しい流れ」について講演があった。

冠動脈疾患集中治療室の開設などにより急性心筋梗塞死亡者数は減少しているが,来院時死亡例数は変化していない。社会復帰率向上のためにも,迅速な通報,1次救命処置(心肺蘇生[CPR]),除細動が必要とされているが,市民への普及率は20〜30%に留まっており,最近では低下傾向にあるという。この理由として,人工呼吸への抵抗や手技の複雑性が考えられる。

『心肺蘇生と救急心血管治療のための国際ガイドライン』では,胸骨圧迫心臓マッサージのみのCPRがクラスUaとして推奨されており,従来の標準的CPRと比べても転帰に差はないことが報告されている。こうしたことから,「簡便で市民にも行いやすい胸骨圧迫心臓マッサージのみのCPRの啓発・普及が必要である」と強調。

また,ガイドラインでは心停止後心拍再開患者に対する軽度低体温療法が推奨されており,わが国では2008年4月より保険適応となった。長尾氏は「迅速なCPR,迅速なAED,迅速な低体温療法により,院外心停止患者の8〜9割が社会復帰可能になるだろう」と期待を述べた。

AEDの今後の課題

最後に,三田村氏より「市民参加のAED:普及5年間の実績と課題」について発表があった。

自動体外式除細動器(AED)は2004年7月の一般人への解禁後,設置台数は年々増えており,市民による使用例数も増加傾向にある。市民が心原性心停止を目撃した際にAEDが使用されれば,4割の症例が救命されると想定されている。しかし,消防庁の調査によると,実際に使われたのは目撃された心停止のうちの1.5%に過ぎず,AEDに対するさまざまな問題点と課題が明らかになったという。

まず一つ目の問題として,心停止が起こった際に,AEDがなかったことがあげられる。AEDの設置は義務ではなく,あくまで任意のものである。そのため,交番やパトカーなどには設置されておらず,また学校などの公共施設にも行政による設置の指示はなされていない。
また,AEDはさまざまな場所に設置される必要があることから,省庁を超えた政策が不可欠であるが,現在のところそうした対策はとられていない。

2つ目に,AEDが設置されていたが使われなかったということがある。その理由として,AEDが何のための器械であるのか,一般人が使っても良いのか,使い方がわからない,などAEDの認知度の低さがうかがえる。また,操作ミスなどの想定外の問題事例も報告されているという。

3つ目として,AEDを使ったが救命できなかったケースもあった。AEDは心室細動(VT)を除細動するための装置であるため,VTでなく心静止による心停止や,時間経過によりVTから心静止へ移行した場合には有効でない。また,AEDによる自動診断の限界や,電池切れ,電極の劣化なども報告されているという。

AEDは今年で一般人への解禁からちょうど5年が経過した。AEDの電池の期限は約5年であり,電池交換や,耐用年数を過ぎたAEDの問題が生じてくると予想される。しかし,AEDの導入により,救急医療は「医療施設において,患者の求めに応じて,有資格者が義務・有償で行う医療」から「街中で,患者の求めの有無に関わらず,無資格者が善意・無償で行う医療」へパラダイムシフトした。三田村氏は「AEDの周知を促して関心を高め,行政の責任を指摘・追求し,また救助者の行為を結果とは無関係に賞賛するなど,マスコミなどのメディアの協力を期待する」と呼びかけた。