イルベサルタンによる降圧が,心不全入院を減少させたのではないか |
Camm氏にESC2009会場でインタビューにこたえてもらった |
■ACTIVE Iの結果をみて
ACTIVE Iの結果をみて,「イルベサルタンが著明な効果を示したわけではない」という点は残念でした。
一つ目の一次エンドポイント(脳卒中+心筋梗塞+血管死)では群間差がみられず,両群の生存曲線はほぼ重なり合っていました。心不全による入院を加えたもう一つの一次エンドポイントでは,有意差はなかったものの,イルベサルタン群において減少傾向が認められました。
しかし,私は,今回の結果にはまったく驚いていません。発表でも指摘されていたとおり,対象者はすでに十分といえる治療を受けていました。また,収縮期血圧>110mmHgという血圧基準はあったものの,両群のベースライン時の収縮期血圧は138mmHgであり,対象者は血圧の高い状態にはなかったといえます。
また,イルベサルタン群に比べ,プラセボ群のほうが多くの降圧薬を試験期間中に服用していたというのも重要なポイントです。服用している降圧薬が多ければ血圧は下がりますから,両群間の降圧度の差はかなり弱められていたと考えられます。一次エンドポイントで差がなかったのも,このためではないでしょうか。
■心不全に対するイルベサルタンの効果
一方で,イルベサルタン群で心不全による入院が有意に減少することがわかりました。発表者のYusuf氏は,「一次エンドポイントの結果についてはそのまま受け止める必要があるが,イルベサルタンが心不全による入院を抑制するのであれば,非常に重要な効果といえる。これはおもにイルベサルタンの降圧効果によるものと考えられる」と説明しました。私もそのとおりだと思います。
心不全とAFは互いに密接に関連し,悪循環をもたらすことから,“双子の疾病”といわれています。AF患者における心不全による入院は非AF患者の約2倍です。一方,心不全患者におけるAFの割合もNYHA分類が高くなるにつれて増加し,NYHA IVではAFの割合は50%にのぼります。
イルベサルタンが心不全に対して有用性を示すメカニズムとして,降圧効果,逆リモデリング効果の2つの仮説が考えられます。イルベサルタンに逆リモデリング効果があるとすれば,今回のような患者集団において発作性,持続性AFから永続性AFへと進展する患者を減らすことができるかもしれません。しかし,AF自体に関する詳しいデータは明らかになっておらず,リモデリングに対して効果があったのかどうかはまだわかりません。
■今後の解析への期待
ACTIVE Iでは,永続性AFが全体の66%と大部分を占めていました。残りの34%の患者における追跡期間中のAF再発について,まだ詳しいデータが発表されていません。ACTIVE Iの本来の目的とは異なりますが,AFの再発に対してイルベサルタンがどのような効果を示したのか,とても興味があります。
ほかに注目すべき点として,出血性脳卒中に対するイルベサルタンの有意な抑制効果があります。一次エンドポイントで有意な差がみられなかったため,解釈には注意が必要ですが,これはとても有益な結果だといえます。
■実地臨床へのインパクト
この結果により明日から治療内容を変えるかというと,答えはノーです。すでに多くの場合,高血圧患者,心不全患者,心筋症患者にはまずACE阻害薬,ACE阻害薬に忍容性のない場合はARBが投与されているからです。
ACTIVE Iの結果は,血圧コントロールに関するこれまでの知見と完全に一致しています。対象患者は高血圧ではありませんでしたが,今回,3mmHgの降圧が有益な効果をもたらすことが示されました。さらに数年観察すれば,アウトカムにも反映されるでしょう。
< 2010.7.01 >
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