11月8〜12日の5日間,米国,ルイジアナ州のニューオリンズにおいて,米国心臓協会(AHA)の学術集会が開催されている。11月7日午後の時点で21,448名の登録があり,うち8,096名が海外からの参加である。プログラムに含まれるアブストラクトは4,000以上にのぼる。循環器領域としてはまさに世界最高峰の学術集会であり,毎年その後の研究や臨床に多大な影響を及ぼす研究がいくつも報告されている。
そのなかでも,9日からはじまる“Late-Breaking Clinical Trials (LBCT)”は循環器専門家がとくに注目する臨床研究が発表されるスペシャルセッションで,関連するテーマごとに1日4トライアル,全16トライアルが発表される予定である。プログラム委員長のGordon F. Tomaselli氏によれば今回は60件のsubmitのなかから選ばれたものである。
ここでは,とくに日本の臨床医に関心が高いと思われるトライアルを毎日1トライアル取り上げ,その発表概要を紹介する。
I-PRESERVE | Irbesartan in Patients with Heart Failure and Preserved Ejection Fraction |
---|
Peter E. Carson, MD (Georgetown University, Washington DC, USA) |
【11月11日・ニューオリンズ】
試験背景/目的 これまで心不全の病態は収縮機能障害による駆出率(EF)の低下が主体と考えられてきたが,心不全患者の約半数は,「EFが保持されている」ことが明らかになってきた。さらに,疫学研究や臨床試験などから,このEFが保持されている心不全(HF-PEF:Heart Failure with Preserved EF)は,EFが低下した心不全に比べ,高齢者,とくに女性に多くみられ,基礎疾患として高血圧の割合が高く,冠動脈心疾患の割合が低いなどの特徴があることがみえてきた。しかし,治療法を確立するようなエビデンスはいまだ得られていない。
そこで,HF-PEF患者に対してアンジオテンシン受容体拮抗薬による予後改善効果を検討するためのプラセボ対照ランダム化比較試験,I-PRESERVEが企画された。HF-PEFの成因として血管や心筋のリモデリングが関連していると考えられており,レニン–アンジオテンシン(RA)系を遮断することでそれらを改善することが狙いだ。
この結果は,11月11日のLate-Breaking Clinical Trials IIIにおいて,Peter E. Carson氏(Georgetown University)によって発表された。
一次エンドポイントは全死亡+心血管疾患(心不全の増悪,心筋梗塞,不安定狭心症,脳卒中,心室性/心房性不整脈,他の要因による入院中の心筋梗塞あるいは脳卒中発症)による入院。
二次エンドポイントは全死亡,心血管疾患死,心不全増悪による死亡あるいは入院+突然死,心血管死+心筋梗塞+脳卒中,QOL,NT-proBNPの変化。
試験プロトコール I-PRESERVE試験の参加施設は25ヵ国,293施設。対象はEF≧45%,心不全の症候のある60歳以上の症例で,6ヵ月以内に心不全による入院歴のあるNYHA II〜IVの患者(入院歴がない場合はNYHA III〜IVの明らかな心不全例)に限定した。収縮期血圧>160mmHg,EF<40%の既往,3ヵ月以内の急性冠症候群,脳卒中発症,肥大型/拘束型心筋症,心膜/弁疾患,重篤な併発疾患,肺疾患,クレアチニン>2.5mg/dL,ヘモグロビン<11g/dLの症例は除外された。
プラセボによる2週間のならし投与後,イルベサルタン群2,067例,プラセボ群2,061例に割付けられ,イルベサルタン群では75mg,150mg,300mgの忍容性を見ながら1〜2週間ごとの強制漸増と,それに続く維持投与が行われ,平均49.5ヵ月間追跡された。対象者にはすでに心不全治療薬,降圧薬,抗血小板薬,脂質低下薬などが投与されており,イルベサルタンは十分な治療の上に追加治療として投与された。
試験結果 患者背景は平均年齢72歳,女性60%,平均EF 59%,高血圧の割合88%,心筋梗塞歴23%となり,これについてCarson氏は「これまでのコホート研究や疫学研究でみられたHF-PEF患者の特徴と非常に類似している」と説明している。イルベサルタンの平均投与量は275mg/日であった。
一次エンドポイントはイルベサルタン群で742例,プラセボ群で763例に発生し,ハザード比[HR]は0.95(95%CI 0.86〜1.05,P=0.35)であった。年齢,性別,EFの程度,併用薬の有無,糖尿病の有無,6ヵ月以内の心不全による入院の有無などのサブグループ解析,および二次エンドポイントにおいて有意な差は認められなかった。
Carson氏は「イルベサルタンは忍容性に優れるものの,HF-PEFに対し予後改善効果は認められず,同様の集団で行われたRA系抑制薬に関する試験(カンデサルタンを用いたCHARM-Preserved,ペリンドプリルを用いたPEP-CHF)の結果を追認する結果となった」と結論づけた。指定討論者のMargaret M Redfield氏は記者会見の席で「ACE阻害薬やARBが高血圧性の心疾患の治療に有用であることはまちがいない。血圧コントロールをはじめ,基礎治療も十分になされたうえでの追加治療であったことが今回の結果につながったのではないか」と指摘したうえで,「ただし,併用薬の影響を排除することができないという臨床試験の限界もある」と続けた。
コメント
William C. Little, MD | 良好な血圧コントロールこそが有効 |
John McMurray, MD | 心機能の変化をみることで,より詳細な説明が可能になる |
Philip A. Poole-Wilson, MD | I-PRESERVEの結果がHF-PEFやHF-REFに対する治療方針を変化させることはない |
Clyde W. Yancy, MD | HF-PEFの病態生理を理解していないという,この患者群の難しさを示した |
日本人の2型糖尿病患者におけるアスピリンの動脈硬化性疾患一次予防効果に関する研究
糖尿病患者における薬剤溶出ステントとベアメタルステントの比較: Mass-DAC登録研究
左室駆出率の保持された心不全患者におけるイルベサルタンの検討
冠動脈疾患をもつ2型糖尿病患者における冠動脈硬化進展抑制効果—ロシグリタゾンvsグリピジド
< 2010.7.01 >
〔最新号紹介〕
THERAPEUTIC RESEARCH vol.31 no.6 2010
< 2010.6.28 >
〔ニュースリリース〕
No.17 – 2010: 「「アマリール®」が小児2型糖尿病患者にも使用可能に」ほか
< 2010.6.24 >
〔トピックス〕
[トピックス] 脳卒中の予防啓発活動の重要性
< 2010.5.31 >
〔最新号紹介〕
THERAPEUTIC RESEARCH vol.31 no.5 2010
< 2010.5.11 >
〔最新号紹介〕
THERAPEUTIC RESEARCH vol.31 no.4 2010